因縁の魔王陛下と聖女令嬢~溺愛の呪いが解けない~
 エリーゼが黙り込んでいるとカインが勝手に一人で語り始めた。

「僕はずっと最強の聖女と結婚したいと思っていたんだ。アゼル様に先越されて焦ったけど、まさかエリーゼ様の方から僕を頼って来てくれるなんてね」

 どうも話の雲行きが怪しい。カインはエリーゼではなく『聖女の能力だけ』を必要としている。しかも最強の聖女と言うならエリーゼではなく妹のセレンの方だ。アゼルが娶った聖女という事もあり勘違いをしている。
 それに優しい笑顔と口調のカインの表情のどこかにアゼル以上の邪悪さを感じる。エリーゼの聖女としての潜在能力が働いているのかもしれない。

「あの、カイン様の目的って……?」
「ウィリアム国は今では強国と言われるけど、昔は弱小国だったんだ。他国に侵略されて支配されて取り戻して……そんな歴史の繰り返しだよ」

 なぜカインは急に国の歴史を語り出したのか、その意図に気付いたエリーゼは反射的に身を引き始める。

「だから僕は最強の聖女を手に入れて、世界を手に入れる」

 カインの堂々とした宣言によって確信に変わった。カインの目的もアゼルと同じで世界征服であった。
 これでは世界平和のためにアゼルの溺愛から逃げたというのに、カインと結ばれても結果は変わらない。それなら愛のあるアゼルと結ばれる方がまだマシだと思える。
 エリーゼは作り笑いをしながら椅子を後ろに引いて逃げる準備に入る。

「ごめんなさい。私、やっぱり考え直してみます。今日のところは帰ります」

 よそよそしく口調を敬語に戻して伝えると、椅子から立ち上がってテーブルの前でお辞儀をする。
 次に頭を上げた瞬間、椅子に座っているカインの背後を見てエリーゼは硬直する。そこには、いつの間にか何人もの武装した兵が控えている。恐る恐る振り返ると背後もやはり同じ。中庭のテーブル席は10名ほどの兵に囲まれていて逃げ道はない。 
 エリーゼは正面を向くと薄笑いを浮かべているカインを睨みつける。

「……これは、どういうこと?」
「ふふ、帰すわけないでしょ。エリーゼ様には僕を愛してもらわないとね。安心してよ、幸せにするから」

 カインの目論見は分かる。聖女の能力を他人に使用する場合は『愛』が影響する。つまり愛し合う事で能力の効果が強まる。だからこそ、アゼルもカインも同じ目的でエリーゼを娶ろうとする。

(もしかしてカイン様、前世の時も私の聖女の力が目当てだったの……!?)

 前世でのカインの一方的な求婚の意味に今になって気付いたが、不思議とショックや落胆などはない。腑に落ちた、という感覚に近い。
 だからと言って前世でカインを殺した罪の意識が消える訳ではないが、こうも考えられる。

(もし前世でカイン様と結婚していたら、私はアゼルを殺していたのかもしれない……)

 その方が遥かに胸が痛むと感じるのは、やはり呪いのせいなのかと思ってしまう。

 しかしカインは知らない。どんなにエリーゼの愛を得ようとしたところで、エリーゼとアゼルは『溺愛』という呪いで魂が繋がっているという事を。
 そしてエリーゼも自覚していない。溺愛の呪いとアゼルの愛からは絶対に逃れられない運命だという事を。
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