因縁の魔王陛下と聖女令嬢~溺愛の呪いが解けない~
 そして、時は現代。
 エリーゼはベッドの上で目を覚ました。春先とはいえ朝は肌寒く、薄い毛布一枚では全身が冷えて震えてしまう。
 セイクリッド国で名高いフェーリス公爵家の長女でありながら、屋敷から隔離された馬小屋のような質素な建物で暮らしている。

(また、あの夢……最近、よく見る)

 伝説上の魔王と聖女が婚姻を結ぶシーン。いつも最後に魔王に『呪い』をかけられたところで目が覚める。
 夢の中の聖女は『エリーゼ』と呼ばれていたので、もしかしたら自分は聖女エリーゼの生まれ変わりなのかもしれない……そんな事を本気で思う。
 そんな事を家族に言えば妄想だと笑われる事は分かっている。エリーゼは着古した地味なワンピースに着替えると小屋の外に出る。
 屋敷には行かずに、中庭の奥にある物置小屋に入るとホウキとバケツを手に持って再び外へと出る。すると、目の前には白いドレス姿の女性が腕を組んで立っていた。後方に二人の侍女を引き連れている。

「あら、お姉様。今日は掃除ではなくて草刈りよ」

 口の端を吊り上げて意地悪そうにエリーゼを見下すのは妹のセレン。20歳のエリーゼとは1歳違いの19歳、長い金髪と碧眼という容姿も姉妹でそっくりであった。
 代々、聖女が生まれる家系の中で、聖なる力を全く持たずに生まれたエリーゼはフェーリス公爵家の恥として幼い頃から虐げられてきた。そのため聖職に就けずに家の雑用ばかりのメイドのような扱いをされている。

「草刈りなら昨日もやったけど……」
「全然できてないわよ! お屋敷一周、綺麗に全部終わるまで朝食はあげないからね!」

 セレンが後ろを向いて歩き出すと、侍女たちも何も言わずにその背中を追う。エリーゼはもう何日も朝食を食べていない。それでも、そんな日々はもう慣れてしまった。
 一生、屋敷の外には出られないのかもしれない。そんな生活でも不満はなかった。それは無意識にエリーゼが外の世界を恐れているからかもしれない。

(あれが前世の夢なら、私には呪いが……きっと私は、外に出てはいけない運命)

 長い期間の孤独が、エリーゼに現実的とは言えない、空想のような恐怖感を植え付けていた。
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