因縁の魔王陛下と聖女令嬢~溺愛の呪いが解けない~
そんなエリーゼの暮らしに転機が訪れたのは、ある日、突然の事だった。
フェーリス公爵家の屋敷の前に、前触れもなく隣国の王家の馬車が停まった。その馬車から降りてきたのは、黒衣に黒のマントを纏った、黒髪で黒い瞳の漆黒の男性。
正門の前でその男を出迎えるのは、フェーリス公爵家の当主ホルス……つまりエリーゼとセレンの父。
「アゼル王様、遠方はるばるお越しいただきまして……」
「挨拶はいい。聖女を迎えに来た。早く出せ」
「は、はい……」
ホルスは低姿勢で構えるも冷や汗が止まらない。デヴィール国の王、アゼル……冷酷非道と言われるアゼル王は、伝説の魔王の生まれ変わりとも揶揄されるほどに悪名高い。武力を行使することも厭わないだけに決して敵に回せない。
そんなアゼルが『この世で最強の聖女を娶る』と言いだしたのだ。そして必然的に『最強の聖女』が生まれる家系であるフェーリス公爵家の娘に白羽の矢が立った。
その時、エリーゼは珍しく屋敷の中に入れられて、侍女たちの手によって綺麗な白いドレスに着替えさせられた。
(なんで、こんな格好をするの……?)
食べ物も衣類も全て質素なものしか与えられなかったエリーゼは突然の事に戸惑う。すると部屋にセレンが入ってきた。
「あら、お姉様。私ほどじゃないけど、それなりに綺麗ね」
「セレン……今日は何があるの? お屋敷の中も外も騒がしいみたいだけど」
「おめでとう、お姉様。王様と結婚できるのよ」
「え? それは、どういう……」
その時、部屋に貴婦人が入ってきた。年齢は40代だが長身で色気があり若々しい。彼女の名はネージュ。エリーゼとセレンの母であり、姉妹の金色の長い髪と碧眼は母親譲りであった。
ネージュは腕を組み、威圧的な視線をエリーゼだけに向ける。その態度はセレンとそっくりだ。
「エリーゼ。あなたはデヴィール国の王、アゼル様に嫁ぐのです」
「デヴィール国の王様に、私が……?」
突然の事で状況が飲み込めない。そもそも母親に会うのも久しぶりなのだ。そしてエリーゼもアゼルが悪名高い王である事は知っている。
ネージュの隣で、同じようにして腕を組んでセレンは笑う。
「良かったじゃない、お姉様のおかげで、家の評判も上がるし国も安泰よ」
「で、でも、なんで私が……?」
聖なる力を持たない唯一の出来損ないが花嫁に選ばれるはずがない。そうなると意図的に選んだとしか思えない。その疑問の答えをネージュは淡々と語る。
「アゼル様は最強の聖女をご所望です」
「それなら、私よりもセレンの方が……」
「セレンを魔王に嫁がせる訳にいきませんからね」
最強の聖女がアゼルに嫁ぐ代わりに、セイクリッド国とデヴィール国の間で平和協定が結ばれて将来的に敵対する事がなくなる。そのために両国から、フェーリス公爵家の娘を嫁がせるという命令の通達がきていた。つまり国家どうしの強制的な政略結婚である。
しかし両親としては、将来有望な聖女のセレンを異国の魔王に差し出すよりも、不要なエリーゼを手放す方が都合が良かった。
今もエリーゼを見るネージュの瞳は氷のように冷たい。
「エリーゼ、あなたが嫁ぐのです。家と国のために聖女のふりをしなさい」
つまりエリーゼはセレンの身代わりであった。しかしエリーゼは聖なる力を持たない。
聖女でもないエリーゼがアゼルを欺けるとは思えないが、アゼルが欲するのは聖女の能力そのものではないらしい。それならば能力を使えなくても問題ない。能力がなくてもエリーゼは最強の聖女の『血筋』なのだから。
それでもエリーゼは悲観的にならなかった。役立たずの自分が初めて家と国の役に立てるのなら、魔王に嫁ぐ事だって厭わない。
(でも、魔王と呼ばれるアゼル様……アゼル様って……)
エリーゼは妙な胸騒ぎを感じていた。アゼルとは会った事がないが、その名前はどこかで聞いた事がある気がする。それは遠い昔、むしろ前世か、夢の中か……そんな朧げな記憶の中にあった気がするのだ。
フェーリス公爵家の屋敷の前に、前触れもなく隣国の王家の馬車が停まった。その馬車から降りてきたのは、黒衣に黒のマントを纏った、黒髪で黒い瞳の漆黒の男性。
正門の前でその男を出迎えるのは、フェーリス公爵家の当主ホルス……つまりエリーゼとセレンの父。
「アゼル王様、遠方はるばるお越しいただきまして……」
「挨拶はいい。聖女を迎えに来た。早く出せ」
「は、はい……」
ホルスは低姿勢で構えるも冷や汗が止まらない。デヴィール国の王、アゼル……冷酷非道と言われるアゼル王は、伝説の魔王の生まれ変わりとも揶揄されるほどに悪名高い。武力を行使することも厭わないだけに決して敵に回せない。
そんなアゼルが『この世で最強の聖女を娶る』と言いだしたのだ。そして必然的に『最強の聖女』が生まれる家系であるフェーリス公爵家の娘に白羽の矢が立った。
その時、エリーゼは珍しく屋敷の中に入れられて、侍女たちの手によって綺麗な白いドレスに着替えさせられた。
(なんで、こんな格好をするの……?)
食べ物も衣類も全て質素なものしか与えられなかったエリーゼは突然の事に戸惑う。すると部屋にセレンが入ってきた。
「あら、お姉様。私ほどじゃないけど、それなりに綺麗ね」
「セレン……今日は何があるの? お屋敷の中も外も騒がしいみたいだけど」
「おめでとう、お姉様。王様と結婚できるのよ」
「え? それは、どういう……」
その時、部屋に貴婦人が入ってきた。年齢は40代だが長身で色気があり若々しい。彼女の名はネージュ。エリーゼとセレンの母であり、姉妹の金色の長い髪と碧眼は母親譲りであった。
ネージュは腕を組み、威圧的な視線をエリーゼだけに向ける。その態度はセレンとそっくりだ。
「エリーゼ。あなたはデヴィール国の王、アゼル様に嫁ぐのです」
「デヴィール国の王様に、私が……?」
突然の事で状況が飲み込めない。そもそも母親に会うのも久しぶりなのだ。そしてエリーゼもアゼルが悪名高い王である事は知っている。
ネージュの隣で、同じようにして腕を組んでセレンは笑う。
「良かったじゃない、お姉様のおかげで、家の評判も上がるし国も安泰よ」
「で、でも、なんで私が……?」
聖なる力を持たない唯一の出来損ないが花嫁に選ばれるはずがない。そうなると意図的に選んだとしか思えない。その疑問の答えをネージュは淡々と語る。
「アゼル様は最強の聖女をご所望です」
「それなら、私よりもセレンの方が……」
「セレンを魔王に嫁がせる訳にいきませんからね」
最強の聖女がアゼルに嫁ぐ代わりに、セイクリッド国とデヴィール国の間で平和協定が結ばれて将来的に敵対する事がなくなる。そのために両国から、フェーリス公爵家の娘を嫁がせるという命令の通達がきていた。つまり国家どうしの強制的な政略結婚である。
しかし両親としては、将来有望な聖女のセレンを異国の魔王に差し出すよりも、不要なエリーゼを手放す方が都合が良かった。
今もエリーゼを見るネージュの瞳は氷のように冷たい。
「エリーゼ、あなたが嫁ぐのです。家と国のために聖女のふりをしなさい」
つまりエリーゼはセレンの身代わりであった。しかしエリーゼは聖なる力を持たない。
聖女でもないエリーゼがアゼルを欺けるとは思えないが、アゼルが欲するのは聖女の能力そのものではないらしい。それならば能力を使えなくても問題ない。能力がなくてもエリーゼは最強の聖女の『血筋』なのだから。
それでもエリーゼは悲観的にならなかった。役立たずの自分が初めて家と国の役に立てるのなら、魔王に嫁ぐ事だって厭わない。
(でも、魔王と呼ばれるアゼル様……アゼル様って……)
エリーゼは妙な胸騒ぎを感じていた。アゼルとは会った事がないが、その名前はどこかで聞いた事がある気がする。それは遠い昔、むしろ前世か、夢の中か……そんな朧げな記憶の中にあった気がするのだ。