因縁の魔王陛下と聖女令嬢~溺愛の呪いが解けない~
 その頃のアゼルはカインとの一騎打ちとなっていた。しかし自己暗示で強化されたつもりのアゼルと、最強の聖女の力で強化されたカインとでは力の差は歴然。
 黄金の光を纏ったカインの剣が、体勢を崩したアゼルの脇腹を斜めに切り裂いた。

「ぐぅっ……!」
「ははっ! 強化しても、その程度の力……やっぱりエリーゼ様は偽物だね!」
「黙れ!! エリーゼはオレの最強の聖女だ!!」

 アゼルは傷口を片手で押さえるが、指の隙間から血が流れ出るほどに出血量が多い。
 距離を取って後方で戦いを見ていたエリーゼは衝動的にアゼルに向かって駆け出す。

「アゼルッ!!」

 聖女の能力がない自分が加勢に行っても足手纏いになるだけなのに、なぜアゼルの元へ向かってしまうのか。
 エリーゼは自分自身に戸惑いながらも、ただ『アゼルを守りたい』という心が先行して足が動いてしまった。

「……エリーゼ!?」

 気配に気付いたアゼルは『来るな』と言いたげな顔で後ろを振り返ったが、エリーゼの足は止まらない。カインには思うところがあるのか、深追いはせずにその場に留まっている。
 やがてエリーゼがアゼルの胸に飛び込むと、二人はしっかりと抱き合う。脇腹の負傷の痛みでアゼルが微かに顔を歪めるが、すぐに魔王らしい不敵な笑いを浮かべる。

「なんだ、エリーゼ。そんなにオレが愛しいか。あとで抱いてやるから大人しく待ってろ」

 エリーゼは青の瞳を潤ませながら、決して炎を絶やさないアゼルの赤い瞳に近付いていく。

「アゼルが勝ったら抱かせてあげる」

 こんな時でもエリーゼは心に反して素直に『愛してる』と返せない。溺愛だけでなくツンデレの呪いにでもかかっているのだろうかと、エリーゼはそんな自分が憎いと思う。
 でもアゼルは言葉以上に愛を望んでいる事は分かっている。だからこそエリーゼは言葉ではなく愛で返す。

(そうよアゼル、あなたが愛しいから)

 言葉では言えない愛を心で囁きながら、エリーゼはアゼルに唇を深く重ね合わせる。その瞬間、エリーゼの全身が黄金色の光に包まれて、唇で繋がっているアゼルをも一緒に包み込んでいく。
 その光を見て驚いたカインが振り返り、後方のセレンに問いかける。

「セレン、あれは聖なる光なのか!? エリーゼ様の力なのか!?」

 セレンはカインの側へと駆け寄ると、認めたくない事実の光景を見て顔をしかめる。

(あれは聖女の能力『治癒』……)

 しかもセレンを遥かに上回る聖力なのは一目瞭然。それは、聖女の能力を持たないはずのエリーゼを虐げてきたセレンにとっては屈辱でしかない。
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