因縁の魔王陛下と聖女令嬢~溺愛の呪いが解けない~
 やがてアゼルの全身を包んでいた光が消えるが、特に何も変わった様子はない。アゼルは今もここに存在しているし、悪魔のような赤い瞳でエリーゼを睨みつけている。
 エリーゼはアゼルの膝の上で、諦めたように肩の力を抜く。

「失敗した……でも、私は前世とは違う。今度は絶対にあなたを溺愛しないからっ……!」
「貴様がしなくてもオレが溺愛する」
「……え?」

 どうもアゼルの様子がおかしい。その赤い瞳は冷酷ではなく熱を帯びている。それも情熱的な……相手を焦がすほどに熱愛の視線であった。

「愛してやるぞ、エリーゼ。貴様の身も心も魂も全てが愛しい……エリーゼは永遠にオレのものだ」

 愛を熱く語るアゼルの瞳は嘘を言っているようには見えない。アゼルの魂の封印には失敗したが、何か別の効果を与えたらしい。そうなるとアゼルの熱い視線が気になる。まるでアゼルにも溺愛の呪いがかかってしまったような……。
 そう考えている間にも、アゼルの赤い瞳が近付いて唇が触れ合いそうな距離になる。

「聖女エリーゼよ。デヴィール国王アゼルが貴様を娶る。永遠に愛してやるぞ」
「え、いやっ!! 放しっ……」

 エリーゼの口を塞ぐようにしてアゼルの唇と重なる。強制的に婚姻の口付けを交わされてしまった衝撃よりも、悔しいが愛しさが勝る。これは溺愛の呪いの効力だと分かっているが決して抗えない。

(でも、何かおかしい……)

 確かにアゼルを愛しいと思うのだが、溺愛ほどではない気がする。そう思ったエリーゼはキスの最中でありながら右手を振り上げてアゼルの頬を全力で叩いた。
 アゼルの顔が横を向くほどに強いビンタであったが、エリーゼはこれで確信した。自分はアゼルを溺愛まではしてない。これならアゼルの愛を拒絶できると。

「貴様……クク……そんなところも可愛いな。愛しいぞ、愛してるぞ」

 叩かれたというのに、アゼルは嬉しそうに笑って愛を語り続けている。アゼルに新たな性癖が目覚めた訳ではなさそうだ。アゼルは完全にエリーゼを溺愛している。

(これは……アゼルにも溺愛の呪いがかかったというの?)

 思い返してみると、聖女の能力は邪悪な力を跳ね返す。衝動的に目覚めた内なる聖力が、エリーゼの魂にかけられた呪いをアゼルに跳ね返した。
 つまり、今度はアゼルに『溺愛の呪い』がかかってしまった。しかしエリーゼ自身の溺愛の呪いも完全には解けていない。
 おそらく呪いが二分割されて二人共にかけられている状態。その効力は半々のはずだが、どう見てもアゼルの溺愛の方が強い。

「アゼル、あなた……まさか本気で私を……?」

 前世でのアゼルは、エリーゼの聖女の能力を利用するために呪いをかけて娶ったはずだった。しかしエリーゼに溺愛され続けているうちに、いつしかアゼルも本気でエリーゼを溺愛していた。その本気の愛が加わり相乗効果となって呪いの効力を強めた。

「あぁ、前世から本気だった。エリーゼ、今世も幸せにしてやる」

 前世と今世でさらに増した溺愛により、アゼルは強くエリーゼの体を抱きしめる。
 今になってアゼルの前世の本気の愛を知ったエリーゼは、不覚にも恋に落ちたかのように胸が高鳴る。呪いの効果なのか、本気の思いなのか……アゼルが愛しいと感じてしまう。
 つまり二人は今世でも『両思い』になってしまったのだ。しかし呪いの効果が半減したエリーゼだけは不本意で、そのつもりはない。

(でも、だめ……私は絶対に溺愛しないんだから……)

 今世では絶対に魔王アゼルとの溺愛エンドを回避してみせる。誇り高き聖女の令嬢エリーゼは、そう強く決意する。
 ツンデレなエリーゼは心で拒絶を繰り返しながらも、馬車の中で何度もアゼルからの愛の誓いのキスを受け入れていた。

「可愛いな、エリーゼ。愛してるぞ。どうだ、オレに愛されて嬉しいだろう?」
「嬉しくないっ!」
「エリーゼもオレを愛しているだろう?」
「ふざけないで!! 私は、あんたなんかっ……」

(悔しいけど、好き……)

 そうして甘い新婚夫婦の二人を乗せた馬車は、デヴィール国の魔王の城へと向かって走り続ける。
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