因縁の魔王陛下と聖女令嬢~溺愛の呪いが解けない~

第2話 魔王な陛下と聖女な令嬢

 まるでウェディングドレスのような純白のドレス姿でエリーゼが屋敷の門を出ると、そこで待機していたデヴィール国の馬車に乗せられた。座席には、すでに黒衣の男性が座っていた。おそらく、この人がアゼル王だと思われる。

(え、この人……?)

 その男の顔を見た瞬間に、エリーゼの心臓が衝撃を受けて跳ね上がる。
 その黒髪、真紅の瞳……いつも見る夢の中の『魔王』そのものであった。そして、その夢を再生するかのように、あの時の不敵な笑いを浮かべてアゼルが顔を寄せる。

「久しぶりだな。ようやく見付けたぞ、エリーゼ」
「あなたは、魔王……アゼル……!」

 アゼルの悪魔の瞳と目を合わせた瞬間に、エリーゼに前世の記憶が蘇る。
 アゼルに『溺愛の呪い』をかけられた女王エリーゼは、その一生をアゼルに捧げて魔国で生きた。聖女の能力を利用され、望まぬ悪事に手を貸して、身も心もいいように扱われ……それでもアゼルを溺愛して一生を終えた。そこに本当の愛はなかった……はずだった。

(このままでは……まずいわ!!)

 魂にかけられた呪いの効果は今も持続している。このままでは今世もアゼルを溺愛して生きる事になる。今世では聖なる力を持っていないので軍事力として利用される恐れはないものの、エリーゼの感情と自尊心がそれを許さない。

「クク……まぁ、座れよ」
「きゃっ……?」

 アゼルに片腕を掴まれ、強く引っ張られてエリーゼの体勢が崩れる。そのままの勢いで、向かい合う形でアゼルの膝の上に座らされてしまった。それでもエリーゼは強気に睨んで抵抗の意思を見せる。

「アゼル……あなたの思い通りにはいかないわよ!!」

 急にエリーゼの口調が強気になった。前世の記憶が戻ると同時に、性格も前世と同じく強気な女王になっていた。しかし、なぜかアゼルは、そんなエリーゼを見て恍惚とした表情をしている。

「あぁ……いいぞ、それでこそエリーゼだ。さぁ、再びオレを溺愛するがいい……」
「な!? ふざけないで! あんたなんかっ……絶対に溺愛するものですか!!」

 顔を赤くして嫌がっている割には拒絶していない。むしろ抱きついている。
 そう……エリーゼは前世でアゼルを溺愛してはいたが、その性格は『ツンデレ』であった。そして、そんなツンデレ女王に溺愛され続けたアゼルは、ツンデレ溺愛という性癖に目覚めてしまっていた。
 アゼルはエリーゼの両頬を両手で包む。まるで前世の婚姻の口付けのシーンを再現するように。

「さぁ、婚姻の口付けを交わすぞ」
「い、いや……」

 悔しいが、アゼルは目と心を奪われるほどに容姿が美しく、嫌でも悪魔の赤い目に魅入られてしまう。
 迫り来るアゼルの唇が重なる直前で、エリーゼは片手を上げて力一杯振り下ろす。アゼルの頬を強く叩いた瞬間に、その手から聖なる光が溢れ出る。聖なる力を持たないはずのエリーゼの中で、一瞬だけ大聖女の能力が覚醒した。
 叩かれた頬の痛みなど大した事はないが、アゼルは顔を歪める。エリーゼの手から広がる黄金の光がアゼルの全身を包んでいく。

「ぐ、なん……だ!? 貴様、何をした!?」
「え、なに、この力……?」

 エリーゼ自身も無意識に発動した力を制御できなくて戸惑うが、これはチャンスだと思った。今こそアゼルの魂を永遠に封印できるかもしれない。アゼルさえ転生しなければ、溺愛の呪いから解放される。

(封印! アゼルを封印!!)

 聖女の能力の使い方なんて分からないが、発動した力に便乗して脳内で強く願ってみる。
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