因縁の魔王陛下と聖女令嬢~溺愛の呪いが解けない~
 次の日の早朝。カイン率いるウィリアム国軍は、隣国サイベリア側の国境前に到着した。
 主戦力はカインとエリーゼ、そして将軍ロイアル。念のため他の国境にも兵を配置しているが、それでも数百の騎兵を従えている。
 考える事は同じで、それほど待たずして敵軍、アゼル率いるデヴィール国軍の騎兵の姿が遠くに見えてきた。

「ふん、来たわね。いい度胸よ。やってやろうじゃない」
「……エリーゼ様、すごいやる気だね?」

 敵軍にではなく、誰よりも最前線に立つ勢いのエリーゼの気迫に対してカインは慄いてしまう。
 二人から一歩引いた後方に留まっている馬上のロイアルは、半開きの目で大きなあくびをした。早朝だから眠いのではなく単にやる気がない。

 一方、デヴィール国軍の主戦力はアゼルとセレン、そして軍隊長アーサー。さらにレミアルも兵として参戦する。
 ウィリアム国軍の軍勢を目にしたアゼルは馬から降りる。続いて後方に止まった馬車からはセレンが降ろされる。
 遠目でエリーゼとカインの姿を確認したアゼルとセレンは驚きを隠せなかった。それは衝撃という名のショックに近い。

「先頭にいる聖女はエリーゼか……!?」
「カイン様がお姉様を……?」

 しかもエリーゼは人質の盾として拘束されているのではなく、カインの戦力として同行している様子に見えた。
 その驚きはエリーゼとカインも同じだった。アゼルが連れている聖女がセレンだと確認したと同時に、二人の心に怒りの炎が燃え上がる。
 カインには、セレンの驚きと戸惑いの顔が怯えているように見えた。

「アゼル様はセレンを脅迫して協力させてるんだね……許せない!」
「アゼル……あの浮気者……間違えて連れ帰ったくせにセレンに乗り換えるなんて、許さない!!」

 カインの読みは当たっているが、エリーゼに関しては単なる嫉妬である。
 溺愛の呪いは嫉妬の呪いに効力を変えて、エリーゼの怒りを魔王レベルにまで昇華させた。

「行くわよカイン様!! アゼルをぶっころ……叩きのめしてやる!!」
「え、エリーゼ様……?」

 今、エリーゼが『ぶっ殺す』と言いそうになったのは聞き間違いだろうか。これでもエリーゼは聖女……のはず。
 エリーゼがカインの片腕に抱きつくと、二人の体が同時に黄金色に発光する。いとも簡単に聖女の能力『強化』が発動した。

「すごい、すごいよ……これがエリーゼ様の力なのか!」
「ふん、当然よ! さぁカイン様、あのバカをぶっ殺す……ぶっ倒すのよ!!」

 ……今度は聞き間違いではなかった。それよりもエリーゼは、怒りのあまり無意識に能力を使いこなしている。
 アゼルに対しては思うように発動しなかった能力なのに、嫉妬は純愛の力に勝るという事を証明してしまった。
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