因縁の魔王陛下と聖女令嬢~溺愛の呪いが解けない~
 一方、カインはアゼルに向かって突き進むと長剣を振りかざす。エリーゼの聖力を纏った剣は轟音と爆風を巻き起こし、周囲に砂埃を撒き散らす。
 アゼルは黒い長剣を構えて受け身の体勢を取るが、どう見ても防ぎきれない。カインの後ろには不敵に笑うエリーゼがいるのが恐ろしい。

(エリーゼのあの目、マジか)

 魔王をも震撼させる聖力と威圧。それがエリーゼの嫉妬という名の溺愛だとは思いもしない。

「セレン、オレを強化しろ! でないとオレも貴様も死ぬぞ!!」
「え、い、いやぁぁ!!」

 アゼルに協力したくない、でも死にたくないセレンは、衝動的に両手に聖力を込めて前に突き出す。
 セレンの手の平から放たれた聖力は、ドーム状に広がりながらアゼルの周囲を包み込む。これは聖女の能力『結界』。セレンは咄嗟に攻撃ではなく防御に転じた。
 カインの剣先は黄金の結界に触れた途端に弾き返されてアゼルに届く事はなかった。

「くっ、セレンの結界か……!」

 大聖女であるセレンの結界は簡単には突破できない。再び剣を構えるカインを押し退けて、エリーゼが堂々と前に出てきた。

「どきなさい」
「エリーゼ様、前に出たら危険だよ!」
「結界とは小賢しい真似を。セレンもアゼルも本当に愚かでバカな奴らよ。私の力を思い知るがいい!!」

 信じられない口調だが、これはエリーゼのセリフだ。これではどっちが魔王なのか分からない。

「結界なんて、ぶっ壊してやるわ!!」

 エリーゼは片手を前に突き出すと結界に手の平を当てる。セレンとエリーゼの聖力が反発しあい、衝撃波となって周囲の空気を激しく振動させる。
 やがてエリーゼの聖力に押された結界はひび割れてガラスのように弾け飛ぶ。驚愕したセレンは数歩下がってアゼルの背後に隠れる。

「うそ……これがお姉様の力……!」

 もはや無双状態のエリーゼは、剣を持つアゼルの正面に立っても臆する事はない。最初にアゼルの後ろにいるセレンに言葉を投げる。

「甘いわねセレン。あなたの覚悟は、その程度ってことよ」
「え、覚悟……?」
「私はアゼルのためなら世界征服にだって手を貸す。それがアゼルへの愛の差よ」

 エリーゼはセレンがアゼルと浮気していると勘違いしている。だからこそ真の怒りの矛先は容赦無くアゼルに向けられる。

「さぁて、アゼル。私を放って浮気して戦争だなんて、バカにも程があるわ。覚悟はできてるでしょうね」

 拳を鳴らして喧嘩腰で迫るエリーゼに対してアゼルは身動きすら取れない。その修羅場を目撃した周囲の兵士らも震え上がる。
< 57 / 67 >

この作品をシェア

pagetop