冷血心臓外科医はお飾り妻を逃がさない~愛なき契約から始まる甘く暴かれる独占婚~
 製薬会社の営業、とくに医療用医薬品を扱う場合は、薬機法により厳格な法的規制を受けている。素人が聞いても、きわどい発言なのは明らかだ。

「録音もしています」

 追い打ちをかけるように千八子さんが静かに言い切る。反対に石坂さんは感情的に立ち上がった。

「こんなの、なんの証拠にもなりません!」

「そ、そうだ。純粋にパンタレオンをいいと思っている気持ちで薦めただけで……」

 山本先生も反論する。

「医療業界に身を置く者として、ご自身の行動になにも疑問を抱いていないなら、随分とコンプライアンス意識が低いと言わざるを得ませんね。先生の患者が気の毒です」

 成明さんは冷たく切り捨てた。そのタイミングで今まで黙って聞いていた成明さんのお父さんが口を開く。

「業界規定の遵守が他より厳しいのは、承知のうえでしょう。疑わしき行動は患者の信頼を失い、真面目に働く他の医師に対する不信感へつながっていく。それはやがては医療業界全体に広がります。けっして許されず見過ごせない」

 口調は丁寧で穏やかなのに凄みがある。お父さんは山本先生と石坂さんを真っすぐに見つめた。

「医師という立場の重みをもっと考えるべきでしたね。医師会はもちろん、しかるべきところに報告します。刑事罰も覚悟する案件でしょう」

「そ、そんな……」

 威勢のよかった山本先生が、魂が抜けたようにその場にへたり込む。
< 145 / 166 >

この作品をシェア

pagetop