意地悪なボイスアクターの危険な執着愛から逃れたい
なんで、乗っちゃったんだろう。

……財布のため。

そう言い訳をしようとして、すぐに無理だと気づいた。

財布なんて、本当は、もう、どうでもよかった。

知りたかった、この人のこと。

青信号で車が動き出す。

車内にはエンジンの低い音と、私にだけ聞こえてると願いたい心臓の音だけ。

どれくらい走っただろう。

10分か、20分か……いや、きっとまだ5分も経っていない。

時間の感覚がわからなくなった頃、私は決心した。

「那原さん」

「ん?」

「あの……」

「何?」

前を向いたまま声だけがこちらに向く。

その声は私の背筋をぞくりとさせた。

「どうした? もしかして怖い?」

ほどよく低くて、よく通って、腰に響く声。

短い言葉から発せられる声なのに、わかる。

毎晩、イヤホンの中で聞いていた声と同じだ。

「那原さんは声優ですか?」

「ああ」

あっさりと認められ、少し拍子抜けする。

「愛君のリーガル様の声優ですか?」

「そうだよ」

微かに笑ったように発せられた一言に私は那原さんを見つめる。

それと同時に車が止まり、那原さんは笑みを浮かべたまま、私を見つめた。

まるで、時が止まったようだった。
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