意地悪なボイスアクターの危険な執着愛から逃れたい

7章

那原さんは私の手首を掴んだまま、局の駐車場へ歩いていった。

エレベーターでも廊下でも、一言も話さない。

ただただ私の腕を掴んでいる。

さっきまでの軽口が嘘みたいに静かで、それが余計に怖かった。

「乗って」

見覚えのある車だった。

数日前、私を引きずり込んだ、あの車。

助手席のドアが開けられる。

「……逃げませんから、手、離してください」

「うん」

素直に離された手首が妙に心もとなくて、私はそれを反対の手で押さえながら乗り込んだ。

運転席に那原さんが座り、ドアが閉まる。

エンジンがかかった。

車が、ゆっくりと駐車場を出ていく。

警備ゲートで、那原さんが窓を少し開けてIDを返した。

守衛さんが私に目を向ける前に、窓は閉まった。

そのまま、夜の道路へ滑り出した。

沈黙が続いた。

ウインカーの音が、規則正しく響いた。

ちらりと横を見ると、那原さんは、まっすぐ前を見て運転していた。

ハンドルを握る手は、大きくて指が長い。

信号待ちで、街灯の光が横顔の輪郭をなぞった。

どこに行くんですか、って聞けばいいのに聞けなかった。

聞いたら、この沈黙が終わってしまう気がした。

私は沈黙を望んでいるのだろうか。

再び車が動き出すと窓の外を見た。

私の顔を夜のネオンが流れていく。

再び赤信号で車が止まった。

那原さんは何も言わない。

私の膝の上で、鞄の持ち手を握る指が白くなっていた。
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