『ちゃんと愛してたのに』
1 ◇ロビーで佇む女

上は夏用の紺色のカーディガンを羽織り、ジーンズ姿の女がホテルのロビーで佇んでいた。

 髪は一つにまとめて括っている。
 ほとんどしゃれっ気のない村瀬真理恵の姿だった。

予定通り、目の前をエレベーターに向かう短髪の女が通り過ぎる。
 彼女はトップスに白いTシャツ、下にこげ茶色のズボンを穿いている。

 どんな女が夫の不倫相手なのかと、しばらくの間いろいろと想像してきたが、どう見ても
男がこぞって不倫したくなるような女には見えない。

 洒落者の夫が不倫するくらいだから、どれほど洗練されている女性なのだろうなどと、考えを
巡らせていただけに──そのあまりの平凡さに泣けてくる。


 こんな女にうつつを抜かしているのかと思うと情けなさと腹立たしさの両方が
ふつふつと沸いて来る。

 ホテルのロビーのガラスに映る自分の姿が目に入り、さらに気分はだだ下がりする。
仮にもホテルだというのにおしゃれもせず、近所のスーパーに行くような格好の自分の姿にも
うんざりだ。

 この1~2年体調がすぐれず、気がつけば身の回りに気を遣わなくなっていた。
 毎日がだるくて、生きるのに精いっぱいなのだ。
 なんとか、仕事と家事をこなしている毎日。

 夫に愛想をつかされてもしようがない?
 ……にしても、不倫相手の女もそれほど自分とかけ離れて身だしなみに気を
使っている風でもないのだし。

 やっぱり『どうして夫はあんな冴えない自分とどっこいどっこいの女と不倫しているのか』
という疑問が残る。


 週に3回はホテルを予約していて家計を圧迫している。



 ここまで考えたところで我に返り、真理恵はエレベーターに乗った
長谷川幸子の後に続き、乗り込んだ。

 そして、長谷川が部屋に入ろうとした時、ドアを押さえ自分も彼女を奥へ
押し込むようにして部屋に入り込んだ。

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