触れられなくても、君がいい。 ――青くて甘い二人の遠距離ロマンス。
夏帆と付き合っていた頃は、正直、電話が苦手だった。
それでも、彼女を一番近くに感じるためには頼らざるを得なかったのだけれど。
受話器越しでは、相手の姿が見えない。
どんな空間で、どんな表情をして、誰がそばにいるのか。
視覚という情報は遮断され、音だけが届く。
歪な情報の偏りが、見えない部分を勝手に想像させ、肥大化させていくからだ。
ほんの些細な環境音や、意図せず入り込んだ他人の声。
幼かった俺はそれだけで、自分と相手の世界が別物であることを突きつけられるような気がした。
今の俺が、平気で流せるようになったのは、大人になったからなのだろうか。
それとも――。
暗くなったスマートフォンの液晶画面に薄っすらと反射する自分の顔を見て我に返り、作業に戻った。