触れられなくても、君がいい。 ――青くて甘い二人の遠距離ロマンス。
チェックインの対応を一通り終えた、十六時。
金曜日ということで、週末に海辺でゆっくり過ごしたいカップルや家族連れで、宿は賑わっている。
フロントのカウンターの下で、スマートフォンを確認する。
仕事のトラブルで、昨日は帰ってこられなかった妻から、駅へ到着する時間を知らせるメッセージが届いていた。
背後にある事務室の引き戸を開ける。
「洋、悪い。三十分くらい抜けるわ」
パソコンでの作業から顔を上げた弟の洋が、壁の時計に目をやった。
「あ、迎えか」
カウンターを代わろうと、立ち上がる。
「三十分と言わず、夕食の時間までゆっくりしてきたら? うちの夏風邪で、迷惑かけたし」
弟夫婦は、熱を伴う夏風邪がようやく治ったばかりだ。
その間、俺が宿の仕事を多く被っていたことへの気遣いだろう。
「んー……まあ、うん」
歯切れの悪い俺を見て、洋は「たしかに」と呟き、小さく笑った。
「何が『たしかに』?」
「兄貴って『ツンデレ』だよな」
普段は必要最低限のことしか喋らない洋からの、突然のワードに眉をひそめる。
「……はい?」
「七海から聞いた」
「……何の話だよ」
俺は、そそくさとその場を後にした。