触れられなくても、君がいい。

「やばい、どうしよう。……お父さーん!」

 声をかけてみたけれど、父は危なっかしい妹に気を取られていて、まったく気づかない。

 このくらいの距離なら、私でも取りに行けるかもしれない。
 一日遊び、海に慣れた気になっていた私は、変な自信を持ってしまった。

 テトラポッドから、ゆっくりと海中へ降りる。

 まだ近くにあった浮き輪へ手を伸ばし、掴もうとした瞬間。
 また意地悪な風が吹き、浮き輪はスッと沖の方へ逃げていった。

 掴み損ねた拍子にバランスを崩したことで顔の半分が水に浸かり、鼻から海水を吸い込んでしまう。

「…………ゴホッ!」

 喉の奥が焼けるように痛く、咳き込む。
 さらに強めの波が打ち寄せ、あっけなく足元をすくわれた。

 気づけば、浮き輪との距離はさらに開き、足はもう底につかない状態だった。

 突然の恐怖に、頭が真っ白になった――その時。


「――何やってんだよっ!」


 背後から、大きな音と水飛沫を上げて、誰かが飛び込んだ。

 それは、ちょうど友達と遊んで戻ってきた航だった。
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