触れられなくても、君がいい。
 ◇

 その後しばらくして、父と凪沙とともに、午前中と同じシュノーケリングスポットへ向かった。
 母と幼い弟は、安全な波打ち際で砂遊びをしている。

 浮き輪を抱え、テトラポッドから海へ入った。

「魚どこー!?」

「こっちの岩の陰とかにいるよ」

 はしゃぐ凪沙に質問攻めにされながら、案内をしてあげる。

 航が教えてくれた記憶を頼りに、水中に顔をつけてみた。
 視線を巡らせると、再び魚たちの群れを見つけた。

 けれど、先ほどよりは胸が弾まない。

 凪沙を呼んで教えてあげると、歓声を上げて喜んだ。


 お茶を飲むため、一人で堤防に上がった。

 海水で冷えた身体を、熱を帯びた夏の風が撫でていく。
 肌についた水滴があっという間に乾ききると、今度は肌を刺すような日差しを感じ始めた。

「夏帆ちゃーんっ! めっちゃデカいのいるよーっ!」

 少し離れた海面で、父といる凪沙がキャッキャと楽しんでいる。

「ほんとー?」

 声を張って返事をした、その時。
 突然、やや強めの風が吹き抜けた。

「……あっ!」

 すぐ横に置いていた、買ってもらったばかりの真新しい浮き輪が、風に煽られ転がっていく。
 そして、父と凪沙がいる場所とは反対側の、堤防の下の海面へと落ちてしまった。
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