恋を知らないきみへ
帰社して営業部のフロアに顔を出して、みんなに「戻りましたー」と声をかけた。
「おかえりなさーい」と優しい声がたくさん返ってくる。

「外、暑かったでしょー?」

「お疲れ様ー、展示場混んでた?」

「小関さん、この時間でも笑顔保てるのすごいー!」

色んな人たちから他愛のない会話を投げかけられ、それぞれに全部きちんと返したあとは。


自分のデスクに戻ると必要なパソコンや資料、タブレットだけ手に持って、イスには座らずにまた動き出す。

「あれ?どこか行くの?」

先輩に声をかけられて、この先のことを考えてしまってつい顔をしかめそうになる。
それを、気合いで我慢して口角を上げた。

「はい。ちょっと、マーケ部と打ち合わせがあって」

「そっか、頑張れー」

何気ない言葉だろうが、今は“頑張りたくないんです”と言いたくもなる。

ネガティブな気持ちを全部隠して、「行ってきます」とさっき戻ってきたばかりの営業部フロアから抜け出した。


上の階へ移動しようとエレベーターへ乗り込む。
そこでもなんとなく見たことがあるような他部署の男性たちに「小関さん、お疲れ様です」と話しかけられた。

なぜか私は昔から顔と名前をよく覚えられるらしく、会社でもこうして挨拶されることが多い。


……どうしてなんだろう。

不思議に思っているうちに、エレベーターの扉が開いた。


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