恋を知らないきみへ
───げっ。
というのは、心の声。

乗り込んできたのは、木ノ下くんだった。
私と似たような、ノートパソコンと書類を持っている。

これから私たちは例の件について打ち合わせだから、同じ小会議室スペースへ向かうことになるわけだ。

ここはせめて彼に私から「お疲れ様です」とでも言うべきか、否か。


彼は彼で私と目が合ったと言うのに、なにも知らないみたいに瞬時に逸らして背中を向けられてしまった。


……こいつ、ほんとに社会人?

と、思っていたら。


さっき私に愛想よく「お疲れ様です」と話しかけてきた男性社員二人が

「あの、小関さん?」

と顔を覗き込んできた。

エレベーター内には、四人だけ。
静かな上昇音を聞きながら、私は首をかしげた。

「はい」

「こんなこと聞くのもアレだけどさ、まだ千崎と付き合ってる?」

「おいー、ここで聞くなってー」

「いや、だってここで聞かないでどこで聞くん?」


私が思いっきり言葉に詰まっているからか、二人は小声で言い合っているが。
めちゃくちゃ静かなエレベーター内に、そんな小声なんてものは存在しないわけで、どう考えても丸聞こえだ。

少し気持ちがざわつきながらも、一応答える。

「……はい、付き合ってます」

「あー、だよねえ」

「千崎が小関さんのこと離すわけないじゃん」

……あ、これはまずいやつだ。


「小関さん、飲み会の時に俺と話したの覚えてない?システム部の野口!」

「……すみません、記憶がちょっと」

「じゃあさ、いま覚えてよ」

「い、いや、あの」

思わず書類を抱え直したところで、エレベーターが目的の階に到着した。


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