『胡蝶の夢』に囚われて ― 夢か現か幻か ―
29 ◇山倉美並とTea Time
「ねっ、久しぶりだし時間が大丈夫そうならケーキでも食べない?」
「うんっ、賛成」
私の誘いに、美並が笑顔になった。
やっぱり女子が元気になるのはスイーツだよね~、いくつになっても。
私は2度ほど利用したことのあるモンブランの美味しい店を美並に紹介した。
ケーキを三口ほど食べカフェオレを一度口に含み、ほっとした頃
美並が具体的な近況について私に尋ねてきた。
それは、結婚についてだった。
私は逆に、あの美並様なのだからとっくに既婚者だと思っていたため、近況として
『結婚してるよね?』などという質問は思いつかなかったし──
結婚なんて自分にできるのだろうか? などと自分自身に対して懐疑的だった割に父親のお陰で
かなり早い時期に結婚していたため、話題作りに結婚しているかどうかについての質問などは思い
つかなかった。
「永堀さん、今どうしてるの? 婚活とか頑張ってる?」
美並の問いかけは、ちっとも私が結婚なんてしていないという体での問いかけになっていた。
今日はプライベートな時間だし、過ごすのも1人ということもあり、出勤する時のように
華やかな装いではなかったため、よけいそう思われてしまったのかもしれない。
それに学生時代の友達だから、あの頃の地味なイメージのままなのかもしれなかった──彼女の中の私は……。
「えっと──婚活はしてないかな」
「あっ、ごめんなさい。ちょっと込み入り過ぎたデリカシーにかける質問だったよね」
「大丈夫よ。学生時代の私を知ってる人なら婚活で苦労しそうだもんね、私。
ははっ」
「永堀さん、そんな自虐的な……」
「山倉さん、私、結構早かったのよ──結婚したの。子供もいるのよ」
「あーっ、そうだったんだ。独身だったら失礼な質問しちゃったかなって、
焦っちゃった」
「ドンマイ。山倉さんもとっくに結婚してるよね? 私はね、父親のプッシュがあって23才の時に結婚したのよ」
私の質問を聞いて美並の顔が曇った。
『えっ、まだだった?』
「本当なら、私も3月に挙式して結婚してたはずなんだけど……」
『なんですと、何やらややこしい事情がありそうな』
「恥ずかし過ぎて、そうそう人には話せないような内容なんだけど、
簡単にいうと、婚約者の元カノにしてやられたってことになるのかな。
そのこともまだ傷は癒えてないんだけど、目下の大問題は、仕事なの」
「いろいろ大変な目にあったんだね」
「結婚するつもりで、退職しちゃったから。
就職活動はしてるんだけど、30才過ぎての就活は厳しいし、辞めた理由を話せないのも不利になってるし。
ほんとのことなんて、間抜け過ぎて話せないじゃない?」
「山倉さんはちっとも悪くないのにね。
でもあれだね、世の中そんなことって本当にあるんだね。
今日はあまり時間がないから、あれだけども。
また時間ができた時に結婚が破談になった時の話、聞くわ。
山倉さんがもしも、話したくなったら──だけどね」
「ありがと、永堀さん」
この時、自分が奥田の性になったことを話しても良かったのだが、美並もそれについて訊いてはこなかったため、結局私は話さなかった。
それは──
この時、なんなら気の毒な彼女に、就職を世話してあげようと考えていたせいもあったかもしれない。
そして就職先を紹介するなら、個人情報の垂れ流しは、のちのち都合が悪くなったりする可能性を秘めているとも考えられたからかも……。
彼女に私の個人情報を知らせることはいつでもできるけれど、一度教えてしまったことを
ないことにはできないから。
そして父親に頼んで彼女に就職先を紹介するなら、自分とは違う勤務先に
しようと、この時決めていた。
「ねっ、久しぶりだし時間が大丈夫そうならケーキでも食べない?」
「うんっ、賛成」
私の誘いに、美並が笑顔になった。
やっぱり女子が元気になるのはスイーツだよね~、いくつになっても。
私は2度ほど利用したことのあるモンブランの美味しい店を美並に紹介した。
ケーキを三口ほど食べカフェオレを一度口に含み、ほっとした頃
美並が具体的な近況について私に尋ねてきた。
それは、結婚についてだった。
私は逆に、あの美並様なのだからとっくに既婚者だと思っていたため、近況として
『結婚してるよね?』などという質問は思いつかなかったし──
結婚なんて自分にできるのだろうか? などと自分自身に対して懐疑的だった割に父親のお陰で
かなり早い時期に結婚していたため、話題作りに結婚しているかどうかについての質問などは思い
つかなかった。
「永堀さん、今どうしてるの? 婚活とか頑張ってる?」
美並の問いかけは、ちっとも私が結婚なんてしていないという体での問いかけになっていた。
今日はプライベートな時間だし、過ごすのも1人ということもあり、出勤する時のように
華やかな装いではなかったため、よけいそう思われてしまったのかもしれない。
それに学生時代の友達だから、あの頃の地味なイメージのままなのかもしれなかった──彼女の中の私は……。
「えっと──婚活はしてないかな」
「あっ、ごめんなさい。ちょっと込み入り過ぎたデリカシーにかける質問だったよね」
「大丈夫よ。学生時代の私を知ってる人なら婚活で苦労しそうだもんね、私。
ははっ」
「永堀さん、そんな自虐的な……」
「山倉さん、私、結構早かったのよ──結婚したの。子供もいるのよ」
「あーっ、そうだったんだ。独身だったら失礼な質問しちゃったかなって、
焦っちゃった」
「ドンマイ。山倉さんもとっくに結婚してるよね? 私はね、父親のプッシュがあって23才の時に結婚したのよ」
私の質問を聞いて美並の顔が曇った。
『えっ、まだだった?』
「本当なら、私も3月に挙式して結婚してたはずなんだけど……」
『なんですと、何やらややこしい事情がありそうな』
「恥ずかし過ぎて、そうそう人には話せないような内容なんだけど、
簡単にいうと、婚約者の元カノにしてやられたってことになるのかな。
そのこともまだ傷は癒えてないんだけど、目下の大問題は、仕事なの」
「いろいろ大変な目にあったんだね」
「結婚するつもりで、退職しちゃったから。
就職活動はしてるんだけど、30才過ぎての就活は厳しいし、辞めた理由を話せないのも不利になってるし。
ほんとのことなんて、間抜け過ぎて話せないじゃない?」
「山倉さんはちっとも悪くないのにね。
でもあれだね、世の中そんなことって本当にあるんだね。
今日はあまり時間がないから、あれだけども。
また時間ができた時に結婚が破談になった時の話、聞くわ。
山倉さんがもしも、話したくなったら──だけどね」
「ありがと、永堀さん」
この時、自分が奥田の性になったことを話しても良かったのだが、美並もそれについて訊いてはこなかったため、結局私は話さなかった。
それは──
この時、なんなら気の毒な彼女に、就職を世話してあげようと考えていたせいもあったかもしれない。
そして就職先を紹介するなら、個人情報の垂れ流しは、のちのち都合が悪くなったりする可能性を秘めているとも考えられたからかも……。
彼女に私の個人情報を知らせることはいつでもできるけれど、一度教えてしまったことを
ないことにはできないから。
そして父親に頼んで彼女に就職先を紹介するなら、自分とは違う勤務先に
しようと、この時決めていた。