『胡蝶の夢』に囚われて ― 夢か現か幻か ―
31 ◇キスをしていたのは──
男性が着ている上着の色が、賢人の持っているダウンの色に似ていたのだ。
賢人は2枚のダウンを持っていて、一枚がオレンジっぽい茶色で、その色の
上着を男性が着ていた。
嫌だわ、私ったら。
男性が座っていたのを見ただけの時には、そんなこと気にもしていなかったのに。
カップルのキスシーンのあと視界からシャットアウトしたあとで、気付くなんて。
私は時計を見た。
まだ待ち合わせの時間まで20分ある。
同じ色目のジャケットなんて、よくあることだわ。
気にし過ぎ。
そう思うことで、自分の心を宥めた。
そして、先ほどの男性が賢人ではないことを確認するために、せっかく早めに
来たというのに、男性のこのあとの行動を時間ギリギリまで様子見することに
決めた。
人違いでまたいつものように待ち合わせに遅れたら、賢人には先ほどの成り行きを
話して謝ろう──そんな風に考えて。
私が考えをまとめ、意を決して彼らの姿を再度視界にいれた時ふたりは、
何か話しているように見えた。
そして、すぐに女性が名残惜しそうにその場を離れた。
『えっ、今来たばかりじゃない。飲み物でも買いに行ったのかしら』
男性が立ち上がり歩き出した。
方角は私たちの待ち合わせの場所。
私は膝がガクガクし、身体がいきなり重くなって傾きそうになるのを抑えられなかった。
すぐには歩き出せず、目視で彼の姿を追った。
『残念でした~、賢人じゃん。うっうっ。賢人からあの女にキスしてた。
私たちの8年が終わったんだ。終わっちゃったんだ~。ううっ』
泣きながら、それでも私は冷静だった。
重い足を引きずるようにして、歩を進めた。
賢人らしき人物がちゃんとカフェに入るのを見届けるために。
そして、私を待つためにいつものように椅子に座って待っている彼をちゃんと確認する
ために。
やがて、先ほどの彼は私と賢人が待ち合わせに使っているカフェに入って行った。
また、私は時計を見た。
残り、3分。
早めに座って待てなかったけれど、遅刻はせずに済みそう。
店に入って行くと、私を見つけた賢人が手を振った。
私はゆっくりと彼の座っている場所まで歩いた。
「どうした? どこか具合悪いの?」
「っく……っく」
私は泣くのをやめられなかった。
余りに衝撃が大き過ぎて。
「私、無理。今日は無理──だから」
「美並……何があった?」
『何があった? ですって。私が泣いているのはあなたのせいだっていうのに。
そのあなたが何があった? なんて私に訊いてるなんて、笑える~』
「場所を変えたいの。ここでは話せない」
「分かった。じゃあ、場所を変えよう。どこがいい?」
「カラオケボックス。個室がいい」
男性が着ている上着の色が、賢人の持っているダウンの色に似ていたのだ。
賢人は2枚のダウンを持っていて、一枚がオレンジっぽい茶色で、その色の
上着を男性が着ていた。
嫌だわ、私ったら。
男性が座っていたのを見ただけの時には、そんなこと気にもしていなかったのに。
カップルのキスシーンのあと視界からシャットアウトしたあとで、気付くなんて。
私は時計を見た。
まだ待ち合わせの時間まで20分ある。
同じ色目のジャケットなんて、よくあることだわ。
気にし過ぎ。
そう思うことで、自分の心を宥めた。
そして、先ほどの男性が賢人ではないことを確認するために、せっかく早めに
来たというのに、男性のこのあとの行動を時間ギリギリまで様子見することに
決めた。
人違いでまたいつものように待ち合わせに遅れたら、賢人には先ほどの成り行きを
話して謝ろう──そんな風に考えて。
私が考えをまとめ、意を決して彼らの姿を再度視界にいれた時ふたりは、
何か話しているように見えた。
そして、すぐに女性が名残惜しそうにその場を離れた。
『えっ、今来たばかりじゃない。飲み物でも買いに行ったのかしら』
男性が立ち上がり歩き出した。
方角は私たちの待ち合わせの場所。
私は膝がガクガクし、身体がいきなり重くなって傾きそうになるのを抑えられなかった。
すぐには歩き出せず、目視で彼の姿を追った。
『残念でした~、賢人じゃん。うっうっ。賢人からあの女にキスしてた。
私たちの8年が終わったんだ。終わっちゃったんだ~。ううっ』
泣きながら、それでも私は冷静だった。
重い足を引きずるようにして、歩を進めた。
賢人らしき人物がちゃんとカフェに入るのを見届けるために。
そして、私を待つためにいつものように椅子に座って待っている彼をちゃんと確認する
ために。
やがて、先ほどの彼は私と賢人が待ち合わせに使っているカフェに入って行った。
また、私は時計を見た。
残り、3分。
早めに座って待てなかったけれど、遅刻はせずに済みそう。
店に入って行くと、私を見つけた賢人が手を振った。
私はゆっくりと彼の座っている場所まで歩いた。
「どうした? どこか具合悪いの?」
「っく……っく」
私は泣くのをやめられなかった。
余りに衝撃が大き過ぎて。
「私、無理。今日は無理──だから」
「美並……何があった?」
『何があった? ですって。私が泣いているのはあなたのせいだっていうのに。
そのあなたが何があった? なんて私に訊いてるなんて、笑える~』
「場所を変えたいの。ここでは話せない」
「分かった。じゃあ、場所を変えよう。どこがいい?」
「カラオケボックス。個室がいい」