『胡蝶の夢』に囚われて ― 夢か現か幻か ―
32 ◇訊きたいことがたくさんある


 私たちは場所を変えて、何度か来たことのあるカラオケボックスに入店した。

 もちろん、歌を唄うために来たわけじゃないので、音は一切無し。

「じゃ、話を聞こうか」

 私が待ち合わせにギリギリに来たと思っている賢人は余裕だった。
 よもや、私にキスシーンを目撃されていたなんて思ってもいないのだろう。

「私、見てたの」

「……」

「賢人が女の子とベンチに座っているところ」

 賢人に少し動揺が走るのがわかった。
 どのシーンを見られていたのか、咄嗟にそう考えてでもいるのか……。

「えっ?  なんで? だって、美並、店にギリギリに来たじゃん。
誰かと間違えてないか?」


「間違えてないよ。だって、今日は賢人をびっくりさせて喜ばせようって
思って、随分早くにお店の近くまで来てたから。

 いいことしたのに、悲しいことになっちゃって──
つくづくやり慣れないことをするもんじゃないなって思った」

「……」
 賢人は、どう説明すればいいのか考えているようだった。


「私、店に行くまでの舗道を歩いて時間を潰してたの」


「ああ、あの子はさ、会社の同僚でたまたま会っただけなんだ。
 だから、待ち合わせまで時間があったから、ちょっと話をしてただけだよ」


「私が見ていたのは、賢人が最初1人で座っていたところからなんだけど……。  
 私の言いたいこと、わかるよネ?」


「えっ……」
 賢人の視線が心の動揺と比例するかのように、動き、挙動不審になる。
 そして、髪の中に両手を入れ頭を抱えてとうとう俯いてしまった。

「賢人はさ、私のことどう考えてるんだろう。私とじゃなくてあの子と付き合いたいの? 
 あの子と付き合ってたんだ、私に隠れ(し)て。
 私のことは、どうするつもりだったの? いつ私を振るつもりだったの?」

 私は疑問に思っていることを、畳みかけるように賢人に訊いた。



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