『胡蝶の夢』に囚われて ― 夢か現か幻か ―
4 ◇呼び出される

 普段、あまり人に興味を示すことのない渋谷だったが、何が切っ掛けだったか? 
ある時を境に永堀文世の存在が気に掛かるようになったのである。

 それは、異性に対する好意からだとか、そんな風な想いからではなく、ただ
自分の興味を引く何かを彼女に感じ取ったからだった。



 文世の大学時代をずっと見てきて、自分の内包する病理サイコパスとは違うが、
何か普通ではない不思議なものを彼女に感じるのだ。

 それは人となりが、というよりも、周囲との繋がりであったり、彼女の置かれている
環境などを、不自然なものとして己のアンテナが受け取ったのである。

 とても男子学生を3人も侍らせて……いや、この表現は少し違うか。
 文世に仕えているようにしか見えない3人が彼女の側に常にいるのだ。

 さりとて、その3人が文世を取り合っているようにも見えないのが、益々
渋谷の中では不可解だった。

 そして、もっともわけがわからないのは……文世の様子を見ている限り、3人の彼らのうちの
誰かと親しい間柄になろうとか、そのような素振りが微塵も感じられないことだった。

 それでも、例えば……文世がその辺のアイドルや女優並みの美貌を備えている
というのであれば、彼らが彼女の崇拝者として存在しているのだと納得もできただろうが。

 渋谷から見た文世が、造形的にきれいな顔をしていることは認識しているが
ファッションはそこはかとなく普通で、化粧もしているのかどうかわからない
ぐらいのもので、文世はすべからく女子学生の平均値でまとめられていた。

 そのため──
男子3人に常に守られている姿を見て、文世には特殊な才能があるのでは?
そしてそれは『ダークエンパス/不思議な力』な何かを備えているのでは? と
男子学生3人と文世の関係性を知らぬ(がわからない)渋谷はそう結論付けていた。

 己の観察眼から見える──
すべからく女子学生の平均値でまとめられている文世に、4年間もの長きに亘り
石田たちのようなデキる男子学生が3人揃いもそろって、誰一人としてグループから
抜けることも、他に女友達を作ることもなく、ひたすら護衛官のように文世の側近くで
仕えているのだから。

 そう、そして観察していた渋谷から見ると、彼らのしていることは、
ただの男友達の域を出ているように見えた。


          ◇ ◇ ◇ ◇


 ある時――
渋谷は学食など学生たちが一堂に会しやすい場所で文世の存在に気付いた。


 文世が親しい女子たちといる時、必ず2~3人の男子学生がいつも側にいる。
文世が1人の時も必ず男子学生は側にいた。

 いつもカップルのようにくっついて側にいるのではなく、文世が誰かに手を貸してほしいと
思うような場面には、必ず誰か1人は現れてサポートするというような按配である。

 そして、よくよく観察してみると、文世が親しい女子学生といる時、確かに
男子学生たちはそつなく、他の女子学生たちとも打ち解けてはいるのだが、文世に対する
行動や視線は、別格に映って見えた。

 文世の女友達は気付いていないようだったが、時々彼らのことを観察していた渋谷は違った。

 いち早く、まるでボディガードか彼氏のような空気感を醸し出している男子学生たちに、
違和感を感じていた。

 何故?

 普通の距離感ではないことに頭を捻るばかりであった。

 いつか自分が文世とラフに会話する日がくれば、訊いてみたいと思う渋谷だった。

 そして或る日、自分の違和感が間違いないことを立証するようなことが
起きた。


 その日、文世の前に勇者(愚者)が現れた。
 桜庭桃代(さくらばももよ)という女である。

 文世が男子3人と女子2人とで、各々頼んだメニューを手に、食堂で適当な席を見つけて
座ろうとすると、テーブルを挟み睨みつけるような顔をした桜庭が立っており、文世に向けて
尊大な口調で伝言を放つ。

「話があるから食べ終わったらあっちに来て」
 顎であっちを指し示したかと思うと、足早にその場を去っていった。

 そのあっちというのは、学食と隣接していて、食後お茶などをするところで
テーブルとイスが揃えられている。

 文世を見ていると、何が何やら訳がわかっていないように見えた。

 渋谷は桜庭の物言いを聞いたあとも続けてずっと文世の動向から
視線をそらさずにいた。


自分にあちらに来るよう言い置いて、踵を返す瞬間、桜庭が石田の方に視線を
向けたのを文世は見逃さなかった。

 それで、彼女が去ったあと文世も石田のほうを見やった。
 すると石田と視線がかち合う。

❔の顔をして軽く意思表示すると、石田は顔を微妙に歪ませてその視線を
逸らした。

『えっ? 桜庭さんの話って──もしかして石田くん絡みなの?』
そう文世は解釈した。


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