離婚届を渡された契約妻ですが、罪を抱えたエリート外科医の愛が重すぎます
「少し庭を歩いてから帰らないか」
真裕がそんなことを言い出したのは、食事会が終わり、帰宅の途につこうとしているときのことだった。食事会で聞かされたあれこれで頭がいっぱいになっていた遥は、夫の意外な誘いに瞳をまたたかせた。けれど、廊下の窓から見える和洋折衷の広い庭は最初に目にしたときから気になっていたので、素直に頷いた。
二人で外に出ると、しんと澄んだ空気に包まれて、遥はふっと息をつく。
食事会の場は、少々……いやかなり、気詰まりだった。
〝自分たちに便宜を図ってほしい〟
父の事務所にいた頃、そういう要望が日常茶飯事なことはいやというほど見てきたが、慣れてはいても平然とは受け流せない。ああいった手合いはやはり苦手だと思う。
違法ではない。賄賂でもない。
――頭では分かってる。
それでも、同じ手続きを踏むはずのものが、誰の知り合いかで動いたり止まったりする構図は、モヤモヤとしたものを感じさせた。
革靴が敷石を踏む音が控えめに響く。
屋敷から少し遠ざかると、あたりは静まり返り、心地よい静寂が二人の間を満たした。