離婚届を渡された契約妻ですが、罪を抱えたエリート外科医の愛が重すぎます
『ローズマリーって言うんだよ』

 記憶の奥底から、少年だった真裕の声が思い出された。

「どうかしたのか」

 妻が後ろについてきていないことに気がついた真裕が、いつの間にかそばまで戻ってきていた。

「すみません、つまずいてしまって……」
「そうか。気をつけろよ」

 端的にそれだけを告げた真裕がふと妻の見ていた方向に視線をやる。

「あれは――」
「覚えてますか」

 ほとんど無意識に、そんな問いが口をついていた。

「真裕さんが教えてくれたんですよ。あの花の名前。――ローズマリー」

 ふわりと微笑んで、遥がそんなふうに口にしてしまったのは、自分たちの思い出の花に真裕が反応を示してくれたのが嬉しかったからだ。それこそ、先ほどまでの会話も、現在の冷ややかな関係も、瞬間的に忘れてしまうくらい――心の底から。

 しかし、その花を目にした途端、真裕は表情を強張らせる。青紫の花弁から勢いよく背けたその顔は、見たことがないくらいの苦しみに満ちていた。それはまるで、憎くてたまらない相手を目にしたかのような、苛烈な反応だった。

「真裕さん……?」
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