離婚届を渡された契約妻ですが、罪を抱えたエリート外科医の愛が重すぎます
 指先が白くなるほど力が込められた拳を目にして、遥はなんと言えばいいのか言葉を見つけられなかった。

 政治のしがらみから逃れたい。ただの医者でありたい。それはとても純粋な願望で、遥は深く共感せざるを得ない。だって、薄暗い政治の世界を嫌悪する気持ちは間違いなく自分の中にもあるものだったから。
 
 けれど、彼のその望みは遥との離婚と紐づいている。夫が迷う素振りを見せながらも「離婚はする」と断言した理由がここにあるのだとしたら、遥はどうしたらよいのだろう。

 真裕が身体の向きを変えて、もと来た方向に歩き出す。

 遥はなにも言えずにただそのあとをついていくことしかできなかった。

 離婚はしたくない。できることなら真裕のそばにいたい。けれど、彼を家から自由にしたいとも思う。相反する思いで、頭の中は混沌としていた。

 乱れた足取りで進んでいた遥は、突如小さな溝につまずいて転びそうになる。なんとか転倒は免れたものの、上体が大きく傾いた。

 その状態で顔を上げると、視界の中央に小さな青紫色の花がたくさん咲いているのに気づく。

 近づいてよく観察しなくても分かる。あの花は――
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