離婚届を渡された契約妻ですが、罪を抱えたエリート外科医の愛が重すぎます
 そこで父から、今日からここがお前の家だよ、と言われたものの、知らない場所で知らない人々に囲まれて、自分の帰る場所がここだなんてとても思えなかった。

 そんな疎外感は何日経っても拭い去れず、環境に馴染めない遥は、だんだんと自分の殻に閉じこもるようになっていった。

「お母さんに会いたい。おばあちゃんに会いたい」

 時々口を開いて言うのは決まってそればかりだ。けれど、世話役の使用人たちはそれを聞くと困ったように笑い、「お母様は今面会謝絶なので」と答えるだけだった。

 ――メンカイシャゼツってなに?

 分からないまま日々は過ぎていく。
 そうして季節が一つ進んだ頃、母が亡くなったことを知らされたのだった。



 数日のうちに執り行われた母の葬儀には遥も出席したが、目の前で起きていることをうまく呑み込めなかった。

 だから、葬儀からしばらく経っても母がいなくなったという実感を持てず、周囲の人に病院に行きたいとしきりに訴えた。病院に行けば、また母に会えるはず、そうに違いないと幼いながらも懸命に希望を見いだそうとしていたのだ。
< 61 / 97 >

この作品をシェア

pagetop