離婚届を渡された契約妻ですが、罪を抱えたエリート外科医の愛が重すぎます
 しかし、やっとのことで病院に連れてきてもらったときにはもう、母がいるはずの病室には別の人が入っていた。

 それを目の当たりにしたとき、遥はようやく、母はもう二度と会えない遠い場所に行ってしまったのだと理解した。

 まるで全ての時間が止まってしまったかのような虚無感を抱え、あてもなく歩く。

 そうやってたどり着いたのは花壇の前だった。

 あの日、母の回復を祈って遥がつもうとした花の姿は、もうどこにもなかった。

 爽やかな青紫色の花弁を持つそれはローズマリーというのだと真裕が教えてくれたのを思い出した。

 今はその色を想起させるものはなにも残っていない。花壇はただただ緑の葉に覆われていた。

「遥ちゃん……?」

 唐突に名前を呼ばれ、後ろを振り返ると、そこに立っていたのはあの日と同じ少年、真裕だった。

「久しぶり。よかった、心配してたんだよ。その……しばらく姿を見なかったから」

 なにかを言い淀んだ彼は、おそらく遥の母の死を知っていたのだろう。そのうえで口にすることを避けたのは、彼なりの気遣いだったのだろうが、このとき五歳だった遥には伝わらなかった。
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