離婚届を渡された契約妻ですが、罪を抱えたエリート外科医の愛が重すぎます
 父は遥を唯一の子として徹底的に管理し、自身の駒とするために、清白家に来る以前の過去を不要のものとして切り捨てたのだ。

「……お母さんの最期に会えなかった。会いたいって何度も言ったのに、叶わなかった」

 硬く響く声は意固地な子供のようだと自分でも思うが、この恨みだけは心に深く根ざしていてどうにもならない。

 そっと向かい側を窺えば、理人はなにもかも分かっていると言いたげな顔で聞いてくれていた。

 だから、遥の心は少しだけ穏やかさを取り戻す。

「十五歳のとき、おばあちゃんに再会させてくれたのは理人だったね」

 日本酒が注がれた小さなグラスを両手で包み込むようにしながら、遥は目を閉じる。

「おばあちゃんはその三年後に亡くなったけれど……今度は、ちゃんとそばで見送れた。お母さんとは違って」

 それは遥にとって一生忘れられない恩だった。だから、何度伝えたか分からない感謝をまた口にしようとした。だが、理人はそんな遥を遮るようにして日本酒を呷り、苦笑した。

「あの家、めんどくさいよな」
「……うん」

 遥は噛み締めるように深く頷く。
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