離婚届を渡された契約妻ですが、罪を抱えたエリート外科医の愛が重すぎます
「……え」

 声が漏れるよりも早く、遥の身体は彼の胸に引き寄せられていた。

 硬い肩。熱い体温。呼吸のたびに上下する胸の動きが、スーツ越しに伝わる。

 顔を上げると、互いの視線が間近で絡む。

 真裕は苦悩に満ちた瞳をしていた。

 怒っているのではない。冷たく突き放そうとしているのでもない。

 なにかをこらえて、今にも崩れ落ちそうな、不安定さにじませた瞳だった。

「……遥」

 彼の唇が名前を紡ぐ。吐息のように。

 次の瞬間、唇が重なった。

 温かい熱が唇から全身にじわりと広がって、遥は驚くより先に安堵した。それは、孤独に凍えた心が癒されていくような幸福な感情だった。

 ようやく得られたこの温もりを手放したくなくて、縋りつくようにスーツを掴む。

 なのに、真裕が唇を離そうとするので、遥は震える声を絞り出す。

「……やだ。行かないで……」
「……」

 真裕は返事をしなかった。ただ、遥の目尻に残る涙を親指で拭い、そのまま指先で頬の輪郭をなぞる。

 その触れ方があまりにも優しくて、遥の胸が狂おしく高鳴った。

「……本当に、いいのか……?」
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