監禁された私には、時空の監視者の愛情は伝わらない
日常になりたくない日常
バルドゥールに抱かれたあと2、3日は、まったく体が動かない。
きっと全力で彼を拒んでも拒み切れなかったという絶望で、気力と体力を使い果たしたせいなのだろう。
身体を起こすことも億劫で、ベッドで始終まどろむ私に食事だけは毎日届けられる。犬の餌のように。
犬の餌と違うのは、私に与えられる食事にはスプーンもフォークも添えられている。ただし、ナイフが添えられたことが一度もない。
逆上した私がバルドゥールに襲い掛かるのを懸念しているのだろうか。それは正しい判断だ。窮鼠猫を噛むという諺もある通り、弱い者も追いつめられると強い者に反撃する。
でも、私が全力でぶつかって、彼に傷を負わせることなんてできるのだろうか。無駄に屈強な身体を持つ彼のことだ私なんか羽虫のように、片手で捻りつぶされるに違いない。
それに、そんなことをしてしまえば………そこまで考えて、ぞわりと鳥肌が立つ。
バルドゥールは私を虐げることを楽しんでいる。私に苦痛を与え、快楽を得ている。死なない程度にいたぶり、飼い殺しにするつもりなのだ。
ならいっそ開き直って、彼の愛玩動物になったのだと思い込み、彼を受け入れてしまえば、この苦痛から解放されるのだろうか──嫌だ。そんなの、絶対にお断りだ。
そんなことをつらつらと考えながらベッドに腰かけていた私だったけれど、テーブルの上にある食事を視界に入れたくなくて、窓際まで足を向ける。
憎らしい程、良い天気だ。
窓から見える景色は、半分は大きな樹で塞がれてしまっている。
けれど残りの半分からは青々とした芝生と、丁寧に整えられた花壇が見える。薄いピンクと柔らかい黄色の花が風に揺らめいていて心地よさそうだ。
あそこに行ってみたいなという気持ちが衝動的に湧きあがる。
裸足で駆け出して、芝生に寝転んで、大の字になって空を見上げてみたい。そうしたらどれだけ気持ちがいいだろう。
でも、私はどうあっても、あそこには行けない。なぜならこの窓には鉄格子が嵌められているからだ。
西日が傾き始めれば、鉄格子の影が部屋に伸びてくる。真っ白な部屋に、黒い影が縞模様を作り出す。
毎日毎日それを見続ければ、逃げることは絶対に無理だと思い知らされる。
だけれども、ここから逃げ出さなくても、私は心だけは自由を手に入れる方法を知っている。
「どうして食事を取らない」
食事を拒み続けて4日目。バルドゥールがこの部屋にやってきた。
普段なら、ゆったりとした上着に身を包んでいる彼だが、今日は初めて会った時と同じ、軍服のような制服を着ている。
きっと屋敷に戻った途端、カイナが告げ口をして、そのままここに来たのだろう。
こういうことだけは仕事が早い。いや、きっと私が嫌がることを見付けるのに長けているだけか。とことん意地が悪い。
そんなふうに心の中で悪態を吐くも、私はバルドゥールを無言で睨みつけることしかしない。ベッドから降りた私は、壁に寄りかかりながら、絶対に口を開くものかと、唇を強く噛みしめる。
「何を不貞腐れているのかわからないが、侍女たちを困らせるな」
扉の前で私を睨むバルドゥールの視線が刺すように痛い。
けれど、狼狽える姿なんて見せたくない。それに不貞腐れているという安直な表現で片づけないで欲しい。困っているのは私も同じだ。
「何が不満だ?」
何もかも、全部です。
そう心の中で吐き捨てるも、私は夜着の裾を握りしめ、ただ睨みつけることしかしない。口を聞くのすら、今の私には胸が悪くなる行為だから。
バルドゥールの顔すら見たくない私は、子供のように、ぷいと顔を逸らす。そうすれば、バルドゥールは眉間に皺を刻み、足音荒くこちらに近づいて来た。
「答えろ」
顎を掴まれ、バルドゥールの顔が迫る。顔を背けようとしても、反対の手が私の後頭部に添えられ、がっちりと固定されてしまう。
逃げられないなら、挑むしかない。私はバルドゥールに向かって、こう言い捨てた。
「……抱かれないで済むなら、いくらでも食事を取ります」
瞬間、バルドゥールは微かに笑うと、次に顔を歪めて残酷な言葉を吐いた。
「俺に抱かれずに済む方法など、あるわけがない」
きっと全力で彼を拒んでも拒み切れなかったという絶望で、気力と体力を使い果たしたせいなのだろう。
身体を起こすことも億劫で、ベッドで始終まどろむ私に食事だけは毎日届けられる。犬の餌のように。
犬の餌と違うのは、私に与えられる食事にはスプーンもフォークも添えられている。ただし、ナイフが添えられたことが一度もない。
逆上した私がバルドゥールに襲い掛かるのを懸念しているのだろうか。それは正しい判断だ。窮鼠猫を噛むという諺もある通り、弱い者も追いつめられると強い者に反撃する。
でも、私が全力でぶつかって、彼に傷を負わせることなんてできるのだろうか。無駄に屈強な身体を持つ彼のことだ私なんか羽虫のように、片手で捻りつぶされるに違いない。
それに、そんなことをしてしまえば………そこまで考えて、ぞわりと鳥肌が立つ。
バルドゥールは私を虐げることを楽しんでいる。私に苦痛を与え、快楽を得ている。死なない程度にいたぶり、飼い殺しにするつもりなのだ。
ならいっそ開き直って、彼の愛玩動物になったのだと思い込み、彼を受け入れてしまえば、この苦痛から解放されるのだろうか──嫌だ。そんなの、絶対にお断りだ。
そんなことをつらつらと考えながらベッドに腰かけていた私だったけれど、テーブルの上にある食事を視界に入れたくなくて、窓際まで足を向ける。
憎らしい程、良い天気だ。
窓から見える景色は、半分は大きな樹で塞がれてしまっている。
けれど残りの半分からは青々とした芝生と、丁寧に整えられた花壇が見える。薄いピンクと柔らかい黄色の花が風に揺らめいていて心地よさそうだ。
あそこに行ってみたいなという気持ちが衝動的に湧きあがる。
裸足で駆け出して、芝生に寝転んで、大の字になって空を見上げてみたい。そうしたらどれだけ気持ちがいいだろう。
でも、私はどうあっても、あそこには行けない。なぜならこの窓には鉄格子が嵌められているからだ。
西日が傾き始めれば、鉄格子の影が部屋に伸びてくる。真っ白な部屋に、黒い影が縞模様を作り出す。
毎日毎日それを見続ければ、逃げることは絶対に無理だと思い知らされる。
だけれども、ここから逃げ出さなくても、私は心だけは自由を手に入れる方法を知っている。
「どうして食事を取らない」
食事を拒み続けて4日目。バルドゥールがこの部屋にやってきた。
普段なら、ゆったりとした上着に身を包んでいる彼だが、今日は初めて会った時と同じ、軍服のような制服を着ている。
きっと屋敷に戻った途端、カイナが告げ口をして、そのままここに来たのだろう。
こういうことだけは仕事が早い。いや、きっと私が嫌がることを見付けるのに長けているだけか。とことん意地が悪い。
そんなふうに心の中で悪態を吐くも、私はバルドゥールを無言で睨みつけることしかしない。ベッドから降りた私は、壁に寄りかかりながら、絶対に口を開くものかと、唇を強く噛みしめる。
「何を不貞腐れているのかわからないが、侍女たちを困らせるな」
扉の前で私を睨むバルドゥールの視線が刺すように痛い。
けれど、狼狽える姿なんて見せたくない。それに不貞腐れているという安直な表現で片づけないで欲しい。困っているのは私も同じだ。
「何が不満だ?」
何もかも、全部です。
そう心の中で吐き捨てるも、私は夜着の裾を握りしめ、ただ睨みつけることしかしない。口を聞くのすら、今の私には胸が悪くなる行為だから。
バルドゥールの顔すら見たくない私は、子供のように、ぷいと顔を逸らす。そうすれば、バルドゥールは眉間に皺を刻み、足音荒くこちらに近づいて来た。
「答えろ」
顎を掴まれ、バルドゥールの顔が迫る。顔を背けようとしても、反対の手が私の後頭部に添えられ、がっちりと固定されてしまう。
逃げられないなら、挑むしかない。私はバルドゥールに向かって、こう言い捨てた。
「……抱かれないで済むなら、いくらでも食事を取ります」
瞬間、バルドゥールは微かに笑うと、次に顔を歪めて残酷な言葉を吐いた。
「俺に抱かれずに済む方法など、あるわけがない」