隠れドS系御曹司は一目惚れで結ばれた彼女を溺愛して逃さない

匂い立つ香りは誰がため

「名前を教えて」

羽琉矢の声音はどこまでも優しい。見ず知らずの男性の腕の中で、息を顰めて身動ぎひとつしない結愛の姿に、彼はほくそ笑む。

「河合結愛です」

「結愛ちゃん。可愛い名前だね。僕は綴木羽琉矢。覚えていて」

 その言葉に結愛の体がビクリと動く。
 綴木羽琉矢。
 覚えていて、なんてとても残酷なことをいう。きっと二度と会うことのない人なのに。

 今日の出来事なんて消し去ってしまいたいくらい、つらいことなのに。忘れてしまいたい人なのに、でも、きっと忘れられない。
 結愛は無意識に縋りつくように手に力を入れる。

 柔らかい体で強く抱きしめられて、羽琉矢は一瞬息をのんだ。
 頬を胸に擦り付けるような仕草は、甘えられているようで、庇護欲を掻き立てられる。  

「年はいくつ?」

「二十一歳です」

「学生?」

「はい。今度大学生四年生になります」

 大学生か、よかった。高校生だったら、ちょっとまずいかなと思っていたけど。 
 このくらいでいいのかな? 

 結愛はずっと緊張している。
 受け答えはしっかりしているが、張りつめた糸は緩まない。不安に駆られた気持ちを抱えていたら、決して心は開いてくれないだろう。

 見たいのは笑顔、自分を見てくれる純粋な瞳。欲しいのは真っ直ぐな心。自分だけに許してくれる結愛自身。これは渇望だった。必ず手に入れる。そのために。

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