隠れドS系御曹司は一目惚れで結ばれた彼女を溺愛して逃さない
「いいよ、結愛のペースでゆっくり飲んで」

 羽琉矢の意外なほどに優しい声が返ってきた。
 彼の言葉に頷いたが、この後どうすればいいんだろう? 

 二人きりの部屋の中で何もすることがない。

 家の人はどうしているんだろうか? 今日は平日だからみんな出払っているのか、物音一つしない。
 羽琉矢が何かするとは思えないが、男の人と二人きりというのも初めてで落ち着かない。

 意識し出すと心臓がドキドキして、体温が上がってくる。


 やっぱり、帰ろう。

 桃さえ食べてしまえば、いつでも帰れるのだから早く帰ってしまおう。このままでは身の置き所がない。ドキドキしすぎて心臓が壊れてしまうかもしれない。 

「そういえば、僕たち、ちゃんと自己紹介をしていなかったよね」

 そわそわとしだした結愛の姿に、羽琉矢が声をかける。

 出鼻を挫かれ、帰るタイミングを失ってしまった。先に言われてしまっては断ることもできない。答えるまで離してくれないだろう。
 コップに伸ばそうとしていた手を引っ込めて、結愛は改めて座り直した。

 もう、この娘は……もうちょっとって言ったそばから、どうしてすぐに逃げ出そうとするのかな? 

 捕まりそうで捕まらない。結愛の心は遠い。

 お互い何も知らない。


 二人の関係をはじめるために……話をしよう。


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