朝昼夜の三重人格な陛下と、第三王妃の聖女な薬師

第2話 昼と夜のヴァクト

 ヴァクトが帰ると、入れ替わるようにして次の患者である中年の女性が入ってきてテーブルの前に着席する。近所の顔馴染みなので気軽に話しかけてくる。

「私の前の貴族みたいな格好した患者さん、初めて見るけどランナちゃんの知り合いなの? 賑やかな声が聞こえてたから」
「いえ、初診です。王都から来たらしいです。では診察を始めますね」

 ランナが女性の手を握ろうとして両手を伸ばした時、女性とランナの視線は同じ場所に注目した。ランナの左手の薬指の指輪だ。

「あら? ランナちゃん、その指輪は?」
「え、あ! 違うんです、これは患者さんが診察代にって……!」

 ランナはようやく左手の薬指に指輪をはめる事の意味に気付いて顔を赤くする。慌てて指輪を外そうとするが、きつい訳でもないのに外れない。

「あれ? なんで……外れ……ない!!」
「うふふ、いいのよ、照れなくても。そうよね、ランナちゃんもお年頃だものね~」
「い、いえ! 本当に、違う……!」

 どんなに力を入れても指輪の位置は全く動かない。指にくっついているのか、まるで体の一部のように同化して離れない。
 この流れでは、ランナがヴァクトからプロポーズされて婚約したと勘違いされても仕方ない。もし本当に求婚だとしても急すぎて受け入れられない。
 ランナの慌てようが照れ隠しだと勘違いした女性は詳しい話を聞き出そうと詰め寄る。

「それで、指輪をくれた相手は誰なの? 近所の人? 私の知ってる人かしら?」
「私も知らない人ですよ! 王都から来たヴァクト様という方で……」

 その珍しい名前を聞いた女性が、ふと何かを思い出した様子で考えだした。

「ヴァクトって名前、どこかで聞いたような……そうよ、確か国王の名前もヴァクトだったわ」
「そうなんですか? まぁ同じ名前なんて、いくらでも……」

 ランナは指から指輪を引き抜こうと必死になりながら答えている。この街の住民は国の政情どころか国王の名前すら馴染みがない。
 モーメントの街はジョルノ国内ではあるが、森に囲まれた辺境の地にある。王都からも完全に隔離されて独立しているため、感覚としては異国に近い。

(だめ、抜けない! これ、呪いの指輪なの?)

 呪いの類ならば聖女の能力で解く事は可能だが、ランナには薬を調合する能力くらいしかない。

(ヴァクト様、まさか意図的にこれを……? それとも呪いの指輪だとは知らずにくれたの?)

 仕方なく指輪をはめたままの手で診察を続ける。しかし診察では患者の両手を握って生気を読み取るので、どうしても相手に指輪の存在に気付かれてしまう。
 その日はずっと、ランナは患者に指輪の事を突っ込まれる事となった。
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