これは、診察だ。

Episode2★厳しい指導と小さな気づき

「あほ、の続きをしたいわけじゃないだろうな」


翌日から、葵にとって地獄のような日々が始まった。




蓮の担当する心臓血管外科の病棟に配属された葵は、当然のように蓮の指導を受けることになったのだ。






「カルテの記載ミス、ルート確保のたもたも具合、どれをとっても合格点には遠い。お前をここに置いたのは、俺の目の届くところでこれ以上患者に迷惑をかけさせないためだ」






スタッフルームの隅で、蓮の容赦ない言葉が突き刺さる。悔し涙が滲むが、言い返す言葉なんて一つもない。




(ぐぬぬ……! 見返してやりたいのに、技術も知識も全然足りない……!)






その夜の深夜勤務。




病棟は静まり返っていたが、葵は一人、担当患者のベッドを回っていた。



ふと、窓際の個室に入院する高齢の男性患者の前で足が止まる。



心電図モニターの数値は正常範囲内。



しかし、葵は違和感を覚えた。





(……なんか、さっきより呼吸が浅くない……? それに、手の震えが……)




教科書通りの数値には出ていない。



だけど、患者の額にうっすらと浮かぶ冷や汗と、どこか苦しげなしぐさ。



葵は一瞬迷ったが、自分の直感を信じ、すぐにナースステーションへ走った。




「蓮先生! 203号室の患者さんの呼吸状態がおかしいです! モニターは正常ですが、明らかにいつもと違います!」





仮眠をとっていた蓮が、葵の剣幕に驚いたようにパッと目を見開く。



しかし、葵の真剣な目を一瞥すると、迷わずベッドへと駆け出した。



蓮が聴診器を当てた瞬間、顔色が変わる。



「……肺水腫の初期症状だな。よく気づいた」



迅速な処置が行われ、患者の危機は間一ギリで回避された。




処置室を出た廊下で、蓮は足を止め、振り返って葵を見た。




「……お前の……その、無駄にしつこい観察力だけは、褒めておく」



初めて向けられた、少しだけ柔らかい蓮の視線。



心臓がトクンと大きく跳ねたのを、葵は必死に隠すのだった。
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