これは、診察だ。

Episode3★冷徹医師の隠された本音

「おい、橘。少し付き合え」



患者の危機を救ってから数日後。



葵の「気づき」の早さは、病棟の他の看護師や医師たちからも少しずつ認められ始めていた。



だが、その分、慣れない激務とプレッシャーは葵の体力を着実に削っていた。



その日の夕方、申し送りの最中、葵の視界が急にぐにゃりと歪んだ。



(あれ……、頭がくらくらする……)



次の瞬間、葵の体はストンと床へ崩れ落ちた。



「――橘ッ!」



低く叫ぶ声とともに、誰かの強い腕が葵を受け止める。



意識が遠くへ行く中、聞こえてきたのは、いつもの冷徹なものとは違う、あきらかに焦りと恐怖に満ちた蓮の声だった。



「おい、しっかりしろ……! 目を覚ませ、葵……っ!」



どれくらい時間が経っただろうか。



病院の静かな仮眠室のベッドで、葵はゆっくりと目を開けた。



枕元には、白衣を脱ぎ、ネクタイを少し緩めた蓮が座っている。



その顔には、隠しきれない疲労と心配の色が滲んでいた。



「……せんせい?」



「……目が覚めたか。この、大あほが」



声はいつものドSに戻っていたが、蓮の大きな手が葵の手をぎゅっと強く握りしめていた。



その手が微かに震えていることに気づき、葵は目を見張る。



「ご、迷惑かけてすみません……。私、気が緩んで……」



「迷惑をかけたのはお前じゃない、自分の体調管理もできないお前をここまで追い詰めた俺だ」



蓮はそう言うと、ふっと息をつき、葵の額に優しく自分の手を当てた。



「……お前が倒れたとき、本気で血の気が引いた。……もう二度と、俺を焦らせるなよ」



そのあまりにも真っ直ぐで甘い言葉に、葵は言葉を失う。



冷徹なエリート医師の仮面の下に隠された、自分への確かな想い。



二人の距離が、決定的に縮まり始めた瞬間だった――。
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