世にも奇妙な買取屋

怪物


 私には、高校生のお兄ちゃんがいる。

 お兄ちゃんは近所でも評判の優しい人だ。

 迷子を見つければ家まで送り届け、お年寄りが困っていれば荷物を持ち、休日には地域のボランティアにも積極的に参加している。

 みんながお兄ちゃんを褒めるたび、私は自分のことのように誇らしかった。

 そんなある日、町で連続殺人未遂事件が発生した。

 夜道を歩いていた人が、突然背後から刃物で切りつけられる事件。

 被害者同士に共通点はなく、犯人の手がかりもほとんどないらしい。

「まだ犯人は捕まっていません。夜間の外出には十分ご注意ください」

 テレビでは、毎日のように物騒なニュースが流れていた。

 そんな日が続いていた、ある夜。

 私は、お兄ちゃんが誰にも気づかれないように家を出ていく姿を目撃した。

 翌朝、理由を聞いてみるとコンビニに行っていたと言っていたが、お兄ちゃんは次の日もまた次の日も夜中になると必ず出かけていく。

 そして、一時間ほどで帰ってくる兄はそのまま洗面所に向かい、念入りに手を洗っていた。

 鏡越しで見えた水が、真っ赤に染まっている。

 ま、まさか……。

 信じたくない私は、翌日の夜にお兄ちゃんのあとをつけてみた。

 お兄ちゃんが入ったのはコンビニではなく、人気のない公園。

 そこで見たのは、兄がひとりで歩いていた女性の背中をナイフで切りつける瞬間だった。

「ひぃっっ」

 思わず出してしまった声に、お兄ちゃんが振り向いた。

「ああ……見られちゃったか」

 服には、べったりと血が付いていた。

「お、お兄ちゃん……どうして?」

「俺は……俺は最低な人間だ……」

 学校の勉強、人間関係、将来への不安。

 誰にも弱音を吐けず、積み重なったストレスを、こんな形で発散してしまっていたという。

「ごめんな……。優しい兄ちゃんでいられなくて。本当に本当にごめん……っ」

 お兄ちゃんは、弱さを剥き出しにして泣いた。

 そして、今までの罪を償うためにこのまま警察に行って自首するという。

「家族には迷惑かけるだろうけど、もうこれで終わり……」

「ダ、ダメ!」

 私は、お兄ちゃんの手を掴んだ。

「そんなことをしたら、お兄ちゃんに会えなくなっちゃう。それにお兄ちゃんは、まだ人を殺したわけじゃない。やり直せるよ!」

「でも、俺は自分で衝動を抑えられない。血を見ると、気持ちが不思議なくらいスカッとするんだ。こんな怪物は、早く捕まったほうがいい」

 ――数日後。またニュース速報が流れた。

「昨夜、市内で新たな殺人未遂事件が発生しました。これまでの事件と同一犯なのか、それとも模倣犯による犯行なのか、警察が慎重に捜査を進めています」

 そんなアナウンサーの声を聞きながら、私は洗面所で手を洗った。


〈解説〉

♦️町を騒がせていた連続殺人未遂事件。その犯人は、誰からも「優しい人」と慕われていたお兄ちゃんだったのね。

♣️でも語り手は、兄を失うことだけは耐えられなかったみたいだ。

♦️そして、事件は再び発生する。でもニュースでは「模倣犯の可能性」も報じられていたわ。

♣️ラストで語り手は、手を洗っていたね。ひょっとして、兄が人を傷つけなくても済むように、自分が代わりに犯行を繰り返し始めたってこと?

♦️「優しいお兄ちゃん」を守るために、自分が怪物になるを選んでしまった妹。

兄妹愛なのか、それとも狂気なのか……その答えは、読む人に委ねられているわ。
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