追放された搾りカス聖女は、第二の人生を謳歌する。なのに、激重騎士隊長が放してくれません! なんであんたぁ、ここにいるんだべ!?

「神官長様! ちょっとお待ちください!」

 私は立ち上がると、ある物を取りに慌てて家に戻った。

「神官長様と騎士様も、これをどうぞ! 召し上がってください」
 二人に差し出したのは、今朝採ったばかりのドデカトマトだった。

「……トマトですか……? 大きい……ですね……」
「はい、新種のトマトで、ドデカトマトっていうんですよ」
 
 神官長は戸惑いながら両手で受け取り、トマトをまじまじと見つめている。

「え? いいんですか? ありがとうございます!」
 騎士は気持ちよく受け取ってくれて、早速がぶっとかぶりつく。
「うわっ、なにこれ! マジでうまい!」

 それを見ていた神官長は、徐ろにトマトにかぶりついた。

「……!? これはなんという美味しさ……」
 二人は一心不乱にトマトを食べている。

「実は、このトマトで作った、トマトソースがあるんですよ!」
 私は瓶詰めトマトソースを取り出した。

「このソースを使えば、スープも、煮込み料理も、そのままパンに付けてもおいしいですよ?」
 神官長の前に瓶を差し出す。

「な、なるほど、トマトソース……」
 
 神官長がゴクリと喉を鳴らし、手を出そうとした瞬間に、私は瓶を後ろに隠す。 

「あ、でも、神殿に戻ったら、もうこのトマトは作れませんし、トマトソースも当然作れませんよね〜」
「……!」
「このトマトソースを、神殿に贈りたいなと考えていたんですが、残念です……」

「……うぅ、なんということだ。こんなに魅惑のトマトが存在するなんて……、くっ……致し方ないが」
 神官長は険しい顔で考え込んでいる。

「コレット、分かりました。あなたのことは諦めます。あなたはここにいるのがいい。とても生き生きしていますよ。……私たちはこれで帰ります」
 神官長は眉を下げ、観念したように笑う。

「神官長様……」
「で、その瓶詰めのトマトソースはもらえるんですかね?」

(切り替え早……!)

「……はい」
 私が呆れながら頷くと、隣でロヴァルト様が剣を鞘に戻しながら何か呟いている。

「……なんと慈悲深い……天使、いや女神だ……」
 私には何のことか、よく分からなかった。

 
 私は定期的に瓶詰めトマトソースを、神殿に送ることを約束した。しかも、しっかりお代もいただけることになった。

(トマトはうめぇけど、大量過ぎてちょっと飽きてたんだよね。捌けて良かったべ!)
 
 神官長たちは、嬉しそうにドデカトマトと瓶詰めトマトソースを持ち、王都へ戻っていった。

 遠ざかる二人を見送っていると、ロヴァルト様が声をかけてきた。

「……俺も、王都に戻る」

「……え?」
 一瞬何を言われたのか分からなかったが、段々と理解ができた。

(……そりゃそうだよ。ロヴァルト様は神殿の騎士だし、ずっとここにいるわけにはいかないべ……)

 そういえば神殿いた頃から、ずっとロヴァルト様は近くにいて守ってくれたことを思い出す。

(……もう、お別れだべな……)
 
「そうなんですね……。色々とありがとうございました。……お元気で」
 寂しさが込み上げる胸を押さえ、私は笑顔で見送った。



 ――数日後、神殿から書簡が届く。神官長からだ。
 私は畑の隣で、手紙を開けた。

 例のトマトソースのお陰で、なんとベルニカが部屋から出てきただけでなく、率先してお務めをするようになったとか。
 その味に魅了されたベルニカに、餌としてチラつかせお務めをさせているらしい。
 トマトソースが切れると、禁断症状が出るとか……。

「いや、怪しい薬じゃないべ……」

 そんな感じでトマトソースは好評のようで、神殿から注文が入った。
 最近キュウリも巨大化させたので、ピクルスを作って一緒に送ろうかと考えている。

「まぁ、上手くいってよかったべ……」
 手紙を読み終えた私は、ほっと胸を撫で下ろす。

「……あぁ」
 巨大化させたドデカキュウリをボリボリ食べながら、隣でロヴァルト様が返事をした。

「ところで……、なんであんたぁ、ここにいるんだべ? 王都に戻ったんじゃ?」

 ロヴァルト様が二本目のキュウリを手に取る。
「王都には戻った」

 そう、たしかに王都へ戻ったらしいが、こんな数日で帰ってくるとは聞いてない。

「で? いつまでいるんだべ?」
 ロヴァルト様は私の質問には答えない。ボリボリとキュウリに集中している。

(はぁ……、まぁ、いいか……)
 なんとなく、そのままでもいいような気がしてくる。

 その時、さぁっと風が吹いて、私の髪を揺らす。 

「……一生だ……」

 そんな呟きは風に打ち消され、私の耳には届かなかった。 
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