記憶の欠片
 愛梨side

 
 湊音くんに連れられて、辿り着いた塾の前。


 ただの住宅街なのに、胸の奥がざわざわと落ち着かない。


 「……ここ」


 見覚えが、ある気がする。


 でも、どこで、いつ来たのかは分からない。


 分からないのに、知っているみたいな感覚だけが残っている。


 私は無意識に、建物を見つめたまま立ち尽くしていた。


 ——思い出して。


 そう、頭のどこかで声がした気がした。


 そのとき。


 ぽつり、と腕に冷たいものが落ちた。


 次の瞬間、ぽつ、ぽつ、と音が増え雨がゆっくりと降り始めた。


 その音を聞いた途端、胸が締めつけられる。


 雨の匂い。


 冷たい空気。


 視界を揺らす、水の粒。


 ——だめ。


 そう思ったのに、雨は容赦なく私の中に入り込んできた。


 視界の端に、雨の中で私に傘を差し出す男の子の姿が浮かぶ。


 知らないはずなのに、どうしてか、胸が苦しい。


 次の瞬間、頭の奥を、鋭い痛みが貫いた。


 「……っ」


 立っていられない。


 世界が傾いて、私はその場に崩れ落ちた。


 ——思い出す。


 強制的に、記憶が引きずり出される。

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