はじまりは、再会の後から 〜二人のイケメンからプロポーズされて困惑しています〜
翔也は吹っ切れたように笑った。

「……ううん、それはいい。それよりも。もう、ちぃと一緒に居られないんだ。父さんの実家がある隣の県に引っ越すことになったから。家も売りに出すって。ほら、家のインテリアって母さんのこだわりでフランス風だろ。家具とかそのまま買いたい人がいるんだってさ」

そう言って翔也はまた千雪を抱きしめた。声にやるせなさが滲んでいる。

「え? うそ! いつ ⁉︎」

「……明後日」

「あ…… 明後日⁉︎ 引っ越しなんてどうして?そんなの聞いてないよ!お父さんもお母さんも、先生だって何も言ってなかったし!」

抱きしめられた体勢のまま、千雪は翔也の背中をバシバシ叩いた。

中学生になってから、昔のように鈴木家に入り浸ることがなくなった千雪は、翔也が引っ越し準備をしていることに全く気が付いていなかった。そう言えば、バタバタと忙しそうにしていたかも。程度だ。

「別れの挨拶とか嫌だったから、先生には内緒にしてほしいってお願いした。みんなには夏休み明けに報告があると思う。親にも、ちぃには当日まで黙っててほしいって頼んだ。でもやっぱり何も言わないで行くことが苦しくて。もう会えないのかと思ったら、ちぃに僕の気持ちを知ってほしくなっちゃった」

「そんな」

「でもさ……ちぃ。ちぃは僕の……憎い人になっちゃった」

「……え?」

翔也は泣きそうな瞳をして小さく呟いた。そして千雪の手を愛しそうに握る。

「……帰ろうか」

翔也に微笑まれ渋々千雪は頷く。告白の事や転校する事をこんな風に不意をつかれて言われたのでは、上手く感情をまとめられない。それ以上に翔也が言った「憎い」の言葉に頭を支配された。

(憎い。憎いって何?私、何かした?今までそんな素振りは一度だってなかったよね。理由を知りたいけど、突っ込んで聞く勇気なんてないよ)

悶々とするが答えは翔也だけが知っている。考えたところでどうにもならない。この二日後「またいつか」という言葉を残して翔也はこの団地を後にした。

七歳で出会い十五歳で離れ、あれから十年。思いがけず再会を果たすまで、翔也から連絡が来ることはなかった。『憎い人』という言葉に踊らされ、千雪からも連絡をとったことはない。

しかし千雪にとって翔也は、ずっと大好きな幼馴染のままである。
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