藤堂彬の誤算だらけの結婚生活
「いいだろう、そのように計らう。君のチームへの便宜を図ってくれというわけではないのだろう?」
「それは結構です。公平に選定していただければ、必ず残る自信はありますから」
「ならば、まったく問題ない。難しいことではないからね」
 よかった。本来なら、体力回復に専念するはずの週末にパーティーまで足を運んだかいがあるというものだ。
「だが条件がある」
 けれどその言葉に眉を寄せる。条件をつけられるとは思わなかった。
 まさかの言葉に、彬はまじまじと相手を見る。そして少し警戒した。
 さっき彼は彬の頼みをさほど難しくないと言っていた。それなのに条件をつけてくる。
 意外と狡猾な人物だっただろうか?
 彼のことはよく知らない。だが親友だった恩師は彬にとっては数少ない信頼できる人物だった。その恩師が信頼していた相手だからなんとなく信頼していたのだが……。
「条件、ですか?」
 警戒しながら問いかけると彼はにっこりと微笑んだ。
「さっきの話を受けてくれ」
「さっきの……?」
「見合いの話だ」
「ああ、見合い……」
 気の抜けた声が出た。条件などと仰々しく言うから、なにかと思えば、まだあの謎の楽しみを諦めきれないのか。
 どれだけ好きなんだとやや呆れるが、態度には出さないように努力した。
「どうしても君に会わせたい人がいるんだよ。絶対に気にいるから、会ってみるだけ会ってほしい。もちろん結婚しろとまでは言わないから」
 当たり前だ。いくら研究のためだとはいえ、そんなことをしては本末転倒。
 だが『会ってみるだけ』という言葉に心が動く。
 実際に見合いをしたことはないが、せいぜい顔を合わせて数時間話をするだけだ。
 無駄な時間であることには変わりない。万が一にでも相手に気に入られてしまったら断らなくてはならないしその労力も無駄だが、断ること自体は慣れている。
 そしてそれだけで例の件の懸念が取り払われるのだ。
 黙り込んだ彬を肯定的に捉えたのか、大須賀が「悪くないだろう」と畳み掛けてくる。
「会って少し話をするだけで、君はこれからも安心して研究が続けられるんだ。こんなにいい条件はない」
 まるで商人(あきんど)のように、アピールされて彬はさらに呆れるが言っていることは間違いではない。
 研究者にとってある意味一番乗り越えなくてはならない壁が研究費という壁だ。それがたった数時間で解決されるのだから。
「……確かに悪くない条件ですね。わかりました。会うだけと宣言させてもらってその条件を呑みましょう」
 結論を出すと大須賀が満面の笑顔になる。
「嬉しいねぇ。じゃあさっそくメールしよう。……いや、直接話す方がいいかな? いろいろ難しい年頃だからねえ」
 スマホを出してぶつぶつと言っている。その様子に彬は肝心なことを聞き忘れていたと気がついた。
 いや彬にとってはどうでもいいことなのだが、普通は真っ先に確認することだ。
 今さらだが問いかける。
「お相手の方はどういう方ですか? 社長とはどういったご関係で……」
 すると彼はニコニコしたまま、スマホをスワイプさせている。そして若い女性が花を手に笑っている写真を彬に見せた。
「娘だよ。可愛いだろう?」
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