藤堂彬の誤算だらけの結婚生活
動揺してしまったのを隠しながら返事をする。
「そうなんだって……藍ちゃん、仮にも結婚してるんだよね」
弥がため息をついた。
「藤堂先生だよ? 教授からの飲みの誘いも断るって人が、大学が休みの日にわざわざ会うって相当な相手なんだよ。普通の人で考えたら、浮気と思っていいと思う」
乱暴な言い方に、藍は少しムッとする。
いい方も失礼だし、浮気という言葉も胸に突き刺さる。
弥が藍の味方でいてくれるのはありがたいと思いつつ、黙ってはいられない。
「う、浮気なんて言い方はやめて。そもそも彬さんとは本当の夫婦じゃないんだし、彬さんが誰と会っていようとたとえ……う、浮気してようとそれは自由だし……。ていうか浮気にならないっていうか」
わかり切っていることを口にしただけなのに、どうしてか胸が痛い。自分が発した言葉にグサグサと胸を刺されるような心地がする。
「藍ちゃん」
弥が身を乗り出した。
「そうはいっても世間的には夫婦じゃん。それなのに軽率だよ。あんなところ誰かに見られたら、そりゃ他の先生ならなんともないけど藤堂先生なら噂になるよ。そしたら藍ちゃんは浮気されたみたいになる。そこのところ先生は何にも考えてないんだよ。愛情がないからってないがしろにしていいってわけじゃないでしょ」
『愛情はない』『ないがしろに』という弥の言葉に藍はさらに傷ついた。
「それに……他に女性がいる人が、藍ちゃんを大切にできると思わない」
「た、大切になんて……! し、してくれなくても……」
そもそもそんな関係ではない。
他に女性がいたとしても、なんの文句も言えないのだ。
それはわかりきっているが、それでもそれを口にできなかった。
胸が痛い。痛くてたまらない。
「ねえ、藍ちゃんは、その人がどんな人かは聞いてるの?」
「し、知らない。彬さんの交友関係は、私には関係ないし」
「でも、女性関係は別じゃない? ちゃんと確認した方がいいよ」
「そんなの、私……。私そんなの聞きたくない!」
思わず大きな声になってしまい、はっとして口を閉じる。
同時に、そうなのだと確信する。
彬とその女の人がどういう関係なのかなんて聞きたくない。
もし彼に、好きな女性がいたとしても藍は文句を言える立場にない。それならば知りたくないと思っている。
それってつまり……。
——どういうこと?
まったく自分の心がわからなかった。混乱と、意味不明の失望で、心がぐちゃぐちゃだ。
弥が目を見張った。
「藍ちゃん……? もしかして、藤堂先生のこと……好き、なの?」
「……え?」
頭が真っ白になった。
否定しようとしてできない。
そのまさかなのかもない、と思ったからだ。
——私、彬さんが好きなんだ。
だって、そうだとすれば今感じているわけのわからない胸の痛みも、この前からの外科医ばかり読んでいることにも説明がつく。
途端に、ドドドと心臓が鳴って、あ、これはよくないと思った。
医者から激しい運動を止められているのは、一度に運ぶ血液の量が極端に上昇するのが心臓に負担がかかるから。
今は運動はしていないが、激しく動揺したからか鼓動が速くなりすぎている。
「わっくん。私、ちょっとしんどいかも……。帰るね」
呼吸を整えながら、そう言うと、弥が血相を変えて立ち上がった。
「そうなんだって……藍ちゃん、仮にも結婚してるんだよね」
弥がため息をついた。
「藤堂先生だよ? 教授からの飲みの誘いも断るって人が、大学が休みの日にわざわざ会うって相当な相手なんだよ。普通の人で考えたら、浮気と思っていいと思う」
乱暴な言い方に、藍は少しムッとする。
いい方も失礼だし、浮気という言葉も胸に突き刺さる。
弥が藍の味方でいてくれるのはありがたいと思いつつ、黙ってはいられない。
「う、浮気なんて言い方はやめて。そもそも彬さんとは本当の夫婦じゃないんだし、彬さんが誰と会っていようとたとえ……う、浮気してようとそれは自由だし……。ていうか浮気にならないっていうか」
わかり切っていることを口にしただけなのに、どうしてか胸が痛い。自分が発した言葉にグサグサと胸を刺されるような心地がする。
「藍ちゃん」
弥が身を乗り出した。
「そうはいっても世間的には夫婦じゃん。それなのに軽率だよ。あんなところ誰かに見られたら、そりゃ他の先生ならなんともないけど藤堂先生なら噂になるよ。そしたら藍ちゃんは浮気されたみたいになる。そこのところ先生は何にも考えてないんだよ。愛情がないからってないがしろにしていいってわけじゃないでしょ」
『愛情はない』『ないがしろに』という弥の言葉に藍はさらに傷ついた。
「それに……他に女性がいる人が、藍ちゃんを大切にできると思わない」
「た、大切になんて……! し、してくれなくても……」
そもそもそんな関係ではない。
他に女性がいたとしても、なんの文句も言えないのだ。
それはわかりきっているが、それでもそれを口にできなかった。
胸が痛い。痛くてたまらない。
「ねえ、藍ちゃんは、その人がどんな人かは聞いてるの?」
「し、知らない。彬さんの交友関係は、私には関係ないし」
「でも、女性関係は別じゃない? ちゃんと確認した方がいいよ」
「そんなの、私……。私そんなの聞きたくない!」
思わず大きな声になってしまい、はっとして口を閉じる。
同時に、そうなのだと確信する。
彬とその女の人がどういう関係なのかなんて聞きたくない。
もし彼に、好きな女性がいたとしても藍は文句を言える立場にない。それならば知りたくないと思っている。
それってつまり……。
——どういうこと?
まったく自分の心がわからなかった。混乱と、意味不明の失望で、心がぐちゃぐちゃだ。
弥が目を見張った。
「藍ちゃん……? もしかして、藤堂先生のこと……好き、なの?」
「……え?」
頭が真っ白になった。
否定しようとしてできない。
そのまさかなのかもない、と思ったからだ。
——私、彬さんが好きなんだ。
だって、そうだとすれば今感じているわけのわからない胸の痛みも、この前からの外科医ばかり読んでいることにも説明がつく。
途端に、ドドドと心臓が鳴って、あ、これはよくないと思った。
医者から激しい運動を止められているのは、一度に運ぶ血液の量が極端に上昇するのが心臓に負担がかかるから。
今は運動はしていないが、激しく動揺したからか鼓動が速くなりすぎている。
「わっくん。私、ちょっとしんどいかも……。帰るね」
呼吸を整えながら、そう言うと、弥が血相を変えて立ち上がった。