藤堂彬の誤算だらけの結婚生活
 相変わらず、寝る前に読む小説のラインナップは、外科医もの一色だ。
「お待たせ、あれ? 藍ちゃん、顔赤い? 大丈夫?」
 ぼーっとしている間に、弥が到着していた。
「大丈夫、ちょっと暖房が暑いだけ」
 藍は慌てて首を横に振った。
「そう、場所移る?」
「大丈夫だよ」
 相変わらず過保護発言をしながら弥は自分の飲み物を注文した。
「だけど、本当に顔赤いし……。暖房を弱めてもらうように言おうか」
「そんな大丈夫だって」
 藍は水を飲んでそう言った。公共の空間で、自分のために温度を調節してくれなんて言えるわけがない。
「寒いよりいいし」
「まあそれは。体調は?」
「問題ないよ、大丈夫」
「ボランティアは行ってるの」
「うん、まあ……」
 言葉を濁しながら肯定すると、彼は渋い顔になる。藍はもぞもぞと座り直した。なんだか弥の雰囲気がいつもと違っているように思えて居心地が悪い。
 普段の柔らかい雰囲気ではなく、どことなく怖い。話の内容にもよるけれど、藍の方からも藍の体調に関して彬に突撃したことをひと言言わなくては、と思っていた。が、とても言える雰囲気ではない。
「急にごめんね。ちょっと急ぎで、藍ちゃんに知らせた方がいいことができちゃって」
 その言葉にどきっとする。てっきりこの前の話の続きか、陽菜からの苦言があってのごめんねか、そんなところだろうと思っていたのだ。
 急ぎで知らせなくてはいけないこととは穏やかじゃない。
「藤堂先生のことなんだけどね」
「彬さんの……?」
「四日だったかな? 大学近くのカフェでお見かけした」
 そこで彼は黙り込む。そして藍をじっと見た。
 その間に藍は記憶を辿る。その日の彬は確か知り合いに会うと言って出かけていった日だ。
 結婚の際の約束では、帰宅以外の彼の予定をおしえてもらうことにはなっていなかったが、熱が出て以来、藍がスケジュールを細かく伝えているので自然と彼も、仕事以外の場合はおしえてくれるようになったのだ。
「それで?」
 話の続きを促すと、弥が低い声を出した。
「うん……。藍ちゃんに知らせるべきか迷ったんだけど、先生ね、女性と一緒だったよ」
『女性』という言葉になぜかすっと血の気が引いて鼓動が嫌な感じにら鳴り出した。
 ここのところ意味不明にドキドキとすることはよくあったが、それとは明らかに違う反応だ。不安、恐れ、嫌なことを知ってしまった時のドキドキだ。
 ずっと前、入院しなくてはならなくなった際、父と新田が『次はいつ退院できるかわからない』とヒソヒソと話をしているのを聞いた時のよう。
 けれどなぜ自分がこんな反応をするのかがわからない。
 彬が女性と会っていた。その話のどこに、藍が不安になる要素があるというのだろう?
「そ、そうなんだ……」
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