藤堂彬の誤算だらけの結婚生活
 参加しているプロジェクトの報告会は、白川医科大学病理学研究所の大会議室にて午後一番ではじまった。
 まずはじまりからして気に食わなかった。出席者たちは、集まるやいなや互いに挨拶を交わした後、近況を報告し合う。研修の進捗の報告ではなく内容はゴルフ、新しい研究員のゴシップだ。
 いわゆる雑談というやつだが、そのせいで司会役が着席するのが二分遅れ、さらにモニターの不具合に気がつくのが遅れたため、開始時刻が五分も遅れた。
 一日は二十四時間しかないというのに、五分もタイムロスをしたわけだ。
 イライラしながら手持ちのタブレットをスワイプさせ資料を流し読みしていた彬は、そもそも、と考える。
 わざわざ顔を突き合わせて、報告などする必要はない。
 この【新薬研究共同開発プロジェクト】にはチームが十ある。それぞれのチームは独立したテーマだから基本的に互いの進捗は知る必要がない。とはいえ一応把握しとけというならば、データだけを回せばいい。
 彬が主任を務めている第三チームもデータはすでに共有のクラウドにあげてある。
 だから言ってしまえばこの報告会は主催する教授の趣味なのだ。ともすればバラバラになりがちな研究員たちが同じプロジェクトに所属しているのだということを忘れないようにするため。あるいはチームワークを保つために三カ月に一度は顔を見る必要があるとかなんとか。その趣味に小一時間も費やさなくてはならないことには、毎回毎回うんざりだ。
 すべては新薬の研究、開発のためだと言い聞かせてようやくぎりぎり許容範囲に入るか入らないかの瀬戸際だ。
「——では次は、第三チーム、藤堂ドクター」
 司会の吉原教授がそう言うと、全メンバーの視線が自分に向く。彬は立ち上がった。
「事前にお配りしたデータの通りです。来年には臨床に進めるかと。以上です」
 すべての出席者の時間を節約するために簡潔かつわかりやすい言葉で報告する。
 彬が取りまとめる第三チームは毎回これで、ほかのチームは十数分かけるところ、数十秒で終わらせる。
 司会の吉原が苦々しい表情になり会議室が微妙な空気になるが、まったく気にならなかった。誰がなんと言おうと彬にとってはこれが最前のやり方だ。
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