藤堂彬の誤算だらけの結婚生活
会議が終わり、研究室に戻ろうと廊下を歩いていた彬はエレベーターに乗り込むところで肩を叩かれる。
「おう、藤堂、今日もお前飛ばしてんなー。吉原教授が怖くないのかよ」
同期の三橋だ。
彼は学部生だった頃からの腐れ縁で、今はべつのチームに所属していて仕事上はほとんど接点がないが、顔を見るとからんでくる。
「なぜ俺が怖がるんだ。睨まれるようなことはなにもしていない」
「またまた〜! 俺ちゃんはドキドキしちゃったよ。ほんとお前って感情がないよな。吉原教授主催の飲み会、ガン無視したんだって?」
ぐりぐりと肘で突かれるのを避けながらエレベーターに乗り込んだ。
「吉原教授の飲みは、行く意味がない」
「なんでだよ」
「一度参加したことがあるが一次会は無駄話。二次会はキャバクラだぞ。時間の無駄だ」
聞かれたことに答えると、三橋は「ちょっマジかよ」とのけぞった。
「それを無駄とか言っちゃうの? 念のために聞くけど次期教授の推薦権を現教授が持ってるのは知ってるよね?」
「当たり前だろ。吉原教授もちょいちょい言ってくるけどな。俺は研究のためにここにいる。教授になりたいわけじゃない。だいたい教授になったら学生の指導、理事との付き合い、外部との調整をする必要があるだろう。そんなコスパが悪い地位になりたとは思わない。そう告げたら黙ったぞ」
「ひぇーさすがは白川医科大のヒューマロイド! 出世にはご興味ない!」
狭いエレベーター内で大きな声を出されて彬は眉を寄せた。
彬に言わせると三橋という男は、無駄なことに興味がありすぎる上に、リアクションが大袈裟すぎて理解不能だ。
「なにがヒューマロイドだ。ただの価値観の相違だろう」
「いやいやいや」
エレベーターが三階に停止し降りる。
『白川医科大のヒューマロイド』とは、彬の陰で呼ばれているあだ名だ。
徹底した合理主義、無駄を省きたいがゆえに喜怒哀楽も最低限に留めた結果、そう言われるようになった。抜きん出た仕事上の成果と完璧さが同じ人とは思えないとかなんとか。
研究に没頭するあまり自宅にはほとんど帰らないのだが、それを大学のどこかに充電器があるからだと面白おかしく揶揄されるしまつだ。
腹立たしいとは思わないが、バカバカしいとは思っている。
とはいえこんなふうに面と向かって言うのは三橋くらいだ。
「それにしてもヒューマロイドとは言い得て妙だよな。美形で完璧なスタイルがなんか人工的っていうか。それでもうちょい愛想がよければ天下取れるのにもったいない」
「おう、藤堂、今日もお前飛ばしてんなー。吉原教授が怖くないのかよ」
同期の三橋だ。
彼は学部生だった頃からの腐れ縁で、今はべつのチームに所属していて仕事上はほとんど接点がないが、顔を見るとからんでくる。
「なぜ俺が怖がるんだ。睨まれるようなことはなにもしていない」
「またまた〜! 俺ちゃんはドキドキしちゃったよ。ほんとお前って感情がないよな。吉原教授主催の飲み会、ガン無視したんだって?」
ぐりぐりと肘で突かれるのを避けながらエレベーターに乗り込んだ。
「吉原教授の飲みは、行く意味がない」
「なんでだよ」
「一度参加したことがあるが一次会は無駄話。二次会はキャバクラだぞ。時間の無駄だ」
聞かれたことに答えると、三橋は「ちょっマジかよ」とのけぞった。
「それを無駄とか言っちゃうの? 念のために聞くけど次期教授の推薦権を現教授が持ってるのは知ってるよね?」
「当たり前だろ。吉原教授もちょいちょい言ってくるけどな。俺は研究のためにここにいる。教授になりたいわけじゃない。だいたい教授になったら学生の指導、理事との付き合い、外部との調整をする必要があるだろう。そんなコスパが悪い地位になりたとは思わない。そう告げたら黙ったぞ」
「ひぇーさすがは白川医科大のヒューマロイド! 出世にはご興味ない!」
狭いエレベーター内で大きな声を出されて彬は眉を寄せた。
彬に言わせると三橋という男は、無駄なことに興味がありすぎる上に、リアクションが大袈裟すぎて理解不能だ。
「なにがヒューマロイドだ。ただの価値観の相違だろう」
「いやいやいや」
エレベーターが三階に停止し降りる。
『白川医科大のヒューマロイド』とは、彬の陰で呼ばれているあだ名だ。
徹底した合理主義、無駄を省きたいがゆえに喜怒哀楽も最低限に留めた結果、そう言われるようになった。抜きん出た仕事上の成果と完璧さが同じ人とは思えないとかなんとか。
研究に没頭するあまり自宅にはほとんど帰らないのだが、それを大学のどこかに充電器があるからだと面白おかしく揶揄されるしまつだ。
腹立たしいとは思わないが、バカバカしいとは思っている。
とはいえこんなふうに面と向かって言うのは三橋くらいだ。
「それにしてもヒューマロイドとは言い得て妙だよな。美形で完璧なスタイルがなんか人工的っていうか。それでもうちょい愛想がよければ天下取れるのにもったいない」