藤堂彬の誤算だらけの結婚生活
 成人してからずっと住んでいる祖父から受け継いだ一軒家。十日ぶりに帰宅した彬は、玄関のドアを開いた瞬間、違和感を覚えた。
 玄関に女性の靴があり、電気がついている。
 そこでようやく、家に藍がいることを思い出した。
 結婚したことは覚えているし、なんなら帰る前に今日は帰宅するとメールをした。
 けれど、彬の頭の中は他のことで忙しく、そんな些細なことをドアを開ける直前まで覚えておく必要がないのだ。
 夕食を食べたあとは、家で仕事をしようと思っていて、歩いている時もずっとそのことを考えている。
 廊下を進み、リビングダイニングへ続くドアを開ける。彬の部屋は二階でそこを通らなくてはならない。ダイニングの先のキッチンから物音がする。藍が料理をしているのだろうか。
 億劫だが帰宅したことは知らせておこうと思い覗くと、予想通り藍がいる。
「ただいま」
 声をかけると、包丁を手に目を丸くしている。
「あ、おかえりなさい。え? 早かったですね」
「早くない。時間通りだ」
「え? もうこんな時間⁉︎」
 流しの横の時計に目をやって声をあげた。
「すみません……。戻られるまでに終わってるはずだったんですけど」
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