藤堂彬の誤算だらけの結婚生活
 白川医科大研究棟のほとんど使われていない裏口。そこからそっと外へ出て、ぶるりと身を震わせる。気温は低く、見上げると空は厚い雲に覆われていた。
 まだ昼間なのに吐く息は白い。今年一番の寒さだ。
「あれ、藤堂じゃん。お疲れー」
 誰もいないと思っていた彬は、声のする方を見てギョッとする。三橋が壁に寄りかかりタバコを吸っている。
「こんなところで会うなんて。お前タバコ吸わないだろ」
「タバコを吸いにきたんじゃない。そもそもここは喫煙所じゃないだろう」
 大学は全面禁煙だ。だから喫煙所はない。裏庭のこの一角は誰も来ないから、彬にとっての休憩場所だ。
 三橋が喫煙所にしてるとは知らなかった。これでは人目を避けて、ひとりになりにきた意味がない。
 べつの場所へ行こうとすると「待てよ待てよ。感じ悪いな」と止められた。
「その手に持ってる缶コーヒーくらい飲んでいけよ。冷えるぞ」
 そう言われて彬は仕方なくプルトップを開けた。
「なにしに来たん? 珍しくいき詰まってるなら話聞こか?」
「いや、大丈夫だ。そういうことじゃない」
 研究自体はすこぶる良好。想定以上の結果を得られていて研究室の空気はいつになく明るい。
 だからそれでここにいるわけではない。
「ちょっと集中できなかったからな。そういう意味の気分転換だ」
「ふーん」
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