藤堂彬の誤算だらけの結婚生活
 とはいえ、尋常じゃない様子に心配になる。
「あのー今日は、体調でも悪いんですか?」
 グラタンが無事に出来上がり、テーブルに着席したタイミングで聞いてみる。
 結局彼は藍が料理を終えるまでずっとリビングにいた。
「グラタン、食べられそうですか? 無理なら……」
「いや、体調は悪くない」
「そうですか」
 体調には問題ないと知ってホッとする。おそらく仕事での心配ごとでもあるのだろうと納得して、手を合わせて食べはじめた。
 食べている間も彼の異変は続いていて、スプーンを止めてはこちらをチラチラ。
 仕事のことだろうと思ったが、今度は別のことが心配になった。
 もしかして、グラタンが美味しくないのでは?
 自分としてはうまくできたと思うけれど、好みは人それぞれ。素材は好きでも味付けによっては食べられないということもあるだろう。
「あの……。もしあれだったら無理しないで、残してくださいね」
 思い切ってそう言うと彼は怪訝な表情になった。
「なんの話だ?」
「えーと……。グラタン、美味しくないのかなーって。彬さんさっきからスプーンが止まってるので……」
 指摘すると彼は瞬きをしてフリーズする。まるで指摘されてはじめて気がついたかのようだった。
「いや……違う、そうではなくて」
 急に慌てて首を振る。水を飲み、ゴホゴホと咳き込んだ。
「大丈夫ですか?」
「あ、ああ。大丈夫」
 本当に大丈夫だろうかと心配になる。彼には似つかわしくない言葉だが、挙動不審という感じだ。
 しばらくして落ち着きを取り戻した彼は、口を開いた。
「ちょっと気になることがあったから、考えていただけだ。グラタンは美味しい。かぼちゃの味がする」
「そうだったんですか、よかった。いやよくないですね。きっとよっぽどのことなんでしょうし。彬さん、帰ってきてからずっとうわの空ですし」
 すると彼は驚いたようにフリーズし、瞬きをして藍を見つめる。
「俺が? 帰ってきてからずっと……?」
 これはいよいよ大変だと藍は思う。
 いつもと違うという自覚がないほど、考え込んでいたようだ。よほど難しい内容なのだろう。なにしろ彼の研究は、まだ誰も作り出せていない難病の治療薬を作ることなのだから。
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