藤堂彬の誤算だらけの結婚生活
自分にできることはなにもない。けれどせめて今日は、いつものおしゃべりはやめようと決意する。
気が散らないように早くひとりにした方がいいのかもしれないと、せっせとスプーンを動かした。
ところがそこで、彼の方から話しかけくる。
「……今日、仕事場に来客があった。大須賀製薬の、佐相とかいう男だ」
意外な内容に藍は瞬きを繰り返し、声をあげる。
「佐相弥……、わっくん⁉︎」
そういえば、今日彼は白川医科大に行くと言っていた。彬とは仕事上の関係はないと言っていたのに、わざわざ会いに行ったのだろうか?
なんだか嫌な予感がした。
一方で彬が「わっくん……」と呟いて眉間に深い皺を寄せる。その様子に、これはいい話ではないぞ、と覚悟して、まずは事情を説明せる。
「幼稚園の頃からの幼なじみなんです。もうひとりはるちゃんって女の子と三人でずっと同じ学校だったから仲良くしてて。あ、この前家にきてもらったのはそのふたりです」
「聞いたよ」
「そうですか……わっくん、なんで彬さんのところに行ったんだろ。仕事のことじゃないですよね」
「彼とは仕事上の関わりはない」
ということは、やはり自分に関わることなのだ。直前に彼と話した内容を考えると、ますます嫌な予感がする。
「もしかして私のことでなにか言ってました……? あの失礼なことを……?」
「もっと君のことを気にかけろと言われた。君が熱を出したのなら、ボランティアはやめさせるべきだ、と」
ああやっぱりと思い目を閉じる。最悪だ。
弥がそう思っているのは今日のやりとりでわかったが、それを彬に言いにいくなんて。
苦々しい気持ちになるが、すべては自分の責任だ。
この件について彼が納得する前に、話を終わらせて逃げたから。
「すみません……。わっくんはすごく心配性なんです。小さい頃から一緒にいるので、私が熱を出したり危なくなったりしたところを何回も見たので、たぶんそれが忘れられないんだと思います」
一生懸命説明するが彬の表情は険しくなる一方だ。
「午前中に私のところに来た時に、私、うっかり熱が出たことを言ってしまったんです。それなのにちゃんと説明しなかったから彬さんのところまで行っちゃったのかも。ごめんなさい」
ただでさえ忙しいのに余計な時間を使わせてしまったことを申し訳なく思う。が彼はそれを否定した。
「いや、それはいい。そもそも君の周りからそういう反応があるかもしれないのは想定済みだ。それについて気にすることはない。言いたいことはそこではなくて……」
そこで彼は口を閉じる。珍しく言葉を濁しているのを、不思議に思いながら藍は次の言葉を待った。
彼は一旦水を飲んで、小さな声で問いかけた。
「……君は、あの男とは……どう……いう関係なんだ?」
その様子に、藍は呆気に取られる。
小さな声で途切れ途切れ。
いつも無駄のない会話をする彼にしては異常事態だ。
なにより内容が、さっき藍が告げたことと重複している。
「幼なじみです。幼稚園の頃からの」
「……それだけか?」
「それだけですよ。他になにがあるんですか?」
家族のような存在とか、そう意味だろうか?
言わんとしていることがいまひとつわからずに、首を傾げてじっと見ると、彼は深いため息をつく。そして意を決したように口を開いた。
「君は以前、身体のことがあるから、結婚はしないと決めていると言っていたな?」
「はい」
「もし、身体のことがなかったら、その……彼と結婚したかった……という願望はないのか?」
思いがけない質問に、藍はぽかんとしてしまう。
すぐに首を横に振った。
「ないないない、ないですよ! どうしてそんな話になるんですか?」
気が散らないように早くひとりにした方がいいのかもしれないと、せっせとスプーンを動かした。
ところがそこで、彼の方から話しかけくる。
「……今日、仕事場に来客があった。大須賀製薬の、佐相とかいう男だ」
意外な内容に藍は瞬きを繰り返し、声をあげる。
「佐相弥……、わっくん⁉︎」
そういえば、今日彼は白川医科大に行くと言っていた。彬とは仕事上の関係はないと言っていたのに、わざわざ会いに行ったのだろうか?
なんだか嫌な予感がした。
一方で彬が「わっくん……」と呟いて眉間に深い皺を寄せる。その様子に、これはいい話ではないぞ、と覚悟して、まずは事情を説明せる。
「幼稚園の頃からの幼なじみなんです。もうひとりはるちゃんって女の子と三人でずっと同じ学校だったから仲良くしてて。あ、この前家にきてもらったのはそのふたりです」
「聞いたよ」
「そうですか……わっくん、なんで彬さんのところに行ったんだろ。仕事のことじゃないですよね」
「彼とは仕事上の関わりはない」
ということは、やはり自分に関わることなのだ。直前に彼と話した内容を考えると、ますます嫌な予感がする。
「もしかして私のことでなにか言ってました……? あの失礼なことを……?」
「もっと君のことを気にかけろと言われた。君が熱を出したのなら、ボランティアはやめさせるべきだ、と」
ああやっぱりと思い目を閉じる。最悪だ。
弥がそう思っているのは今日のやりとりでわかったが、それを彬に言いにいくなんて。
苦々しい気持ちになるが、すべては自分の責任だ。
この件について彼が納得する前に、話を終わらせて逃げたから。
「すみません……。わっくんはすごく心配性なんです。小さい頃から一緒にいるので、私が熱を出したり危なくなったりしたところを何回も見たので、たぶんそれが忘れられないんだと思います」
一生懸命説明するが彬の表情は険しくなる一方だ。
「午前中に私のところに来た時に、私、うっかり熱が出たことを言ってしまったんです。それなのにちゃんと説明しなかったから彬さんのところまで行っちゃったのかも。ごめんなさい」
ただでさえ忙しいのに余計な時間を使わせてしまったことを申し訳なく思う。が彼はそれを否定した。
「いや、それはいい。そもそも君の周りからそういう反応があるかもしれないのは想定済みだ。それについて気にすることはない。言いたいことはそこではなくて……」
そこで彼は口を閉じる。珍しく言葉を濁しているのを、不思議に思いながら藍は次の言葉を待った。
彼は一旦水を飲んで、小さな声で問いかけた。
「……君は、あの男とは……どう……いう関係なんだ?」
その様子に、藍は呆気に取られる。
小さな声で途切れ途切れ。
いつも無駄のない会話をする彼にしては異常事態だ。
なにより内容が、さっき藍が告げたことと重複している。
「幼なじみです。幼稚園の頃からの」
「……それだけか?」
「それだけですよ。他になにがあるんですか?」
家族のような存在とか、そう意味だろうか?
言わんとしていることがいまひとつわからずに、首を傾げてじっと見ると、彼は深いため息をつく。そして意を決したように口を開いた。
「君は以前、身体のことがあるから、結婚はしないと決めていると言っていたな?」
「はい」
「もし、身体のことがなかったら、その……彼と結婚したかった……という願望はないのか?」
思いがけない質問に、藍はぽかんとしてしまう。
すぐに首を横に振った。
「ないないない、ないですよ! どうしてそんな話になるんですか?」