キミが家族になった、その日から。
第4章

キミが作る永遠



卒業式まで、あと一週間。


春の風が少しずつ暖かくなり、街には新しい季節の匂いが広がっていた。



夏音と涼は、いつもの帰り道を歩いていた。昔と変わらない道。



───けれど、二人の気持ちはもう昔とは違っていた。


「ねえ、涼。」

「ん?」

「卒業したら、どうするの?」

───夏音の問いに、涼は少し黙った。



進路の話、将来の話。そして――二人の未来の話。


「俺は東京の大学に行く。」


「……そっか。」

夏音の声が少しだけ寂しくなる。

「夏音は?」



「私は地元の大学。」


短い沈黙。初めて、離れる未来を現実として考えた。今まで毎日会えていた。


朝も、帰りも、家に帰れば隣にいた。それが当たり前ではなくなる。


「大丈夫だから」


涼が言った。

「何が?」

「離れても、変わらない。」

夏音は涼を見る。


「本当に?」

「ああ。」


「俺はもう、逃げないって決めたから。」

───その言葉に、夏音の胸が温かくなる。



その夜。涼は一人でリビングにいた。家族写真を見つめる。


そこには、亡くなった夏音の母も写っている。



優しく笑う姿。涼は静かにつぶやいた。


「母さん。」

「俺、間違ってないかな。」

もちろん返事はない。それでも、心の中では分かっていた。

好きになることは、誰かを裏切ることではない。

幸せになることは、過去を忘れることではない。



───次の日。


涼は父親に話を切り出した。



「父さん。」

「どうした?」


いつもの優しい声。その声を聞くと、少しだけ怖くなる。

でも、もう逃げたくなかった。



「話したいことがある。」

父親は静かに頷く。

「夏音のことか?」

涼は驚いて顔を上げた。


「……気づいてたの?」

父親は小さく笑った。

「気づかないと思ったか?」

「二人がどれだけお互いを支えてきたか、ずっと見てきた。」

涼は黙り込む。

「でもな。」

父親は続けた。



「大事なのは…周りが決めることじゃない。」


「お前たち自身が、本当に幸せになれる道を選ぶことだ。」

涼の目が少し潤む。

「俺……夏音が好きだ。」


「家族だからじゃない。」

「一人の女性として、大切にしたい。」

 
父親はしばらく黙ったあと、優しく笑った。


「なら、ちゃんと伝えなさい。」

「夏音にも。」

「自分自身にも。」

その言葉で、涼の中にあった迷いが消えた。

 


───卒業式の日。


校門の前。桜の木の下で、夏音は涼を待っていた。



「……夏音。」

「涼。」


 二人は顔を見合わせる。

 涼は深く息を吸った。


「もう一度、言わせて。」

「俺は――」

春風が吹く。桜の花びらが二人の間を舞う。


「───お前が好きだ。」


 今度は、迷いのない言葉だった。

 夏音は涙を浮かべながら笑う。



「───私も。」

「ずっと、涼が好き。」


17年間生きてきた中で、一番温かい春だった。失った悲しみを抱えながら。

それでも二人は、未来を選んだ。

――キミと歩く未来を。




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