結婚したくないはずの俺様社長に、成婚を強行されました
『真壁様、せめて、こうやってお会いするときくらいは、仕事を忘れる時間にしていただけませんか』

 雑談を交わす中、透子がそう切り出したとき、迅は驚いた。まさかそんなことを言われるとは思っていなかったのだ。

 どうせなら気分転換になった方が有意義だ――そんな透子の考え方は、仕事こそが最優先であり、時間を使う価値のあるものだと思っていた迅には新鮮だった。

 迅を思いやりながら、自分自身はこの時間を仕事のためだと割り切る透子。お互い名前で呼び合おうと提案したとき、戸惑ったように視線を外す仕草のギャップが、しばらく心に残った。

 その後は、忙しい合間を縫って透子を夕食に誘った。お互いの仕事の話をしたり、なんでもない会話を交わしたり。凛としている透子の表情を崩したくて、わざと揶揄ってみたり。

 決して長い時間ではない。だが、彼女とのひとときは確実に迅の気持ちを軽くしていた。

 いつの間にか、迅は透子に会う日を心待ちにし、もっと頻繁に顔を見たいと願うようになっていた。しかも会社にいても、〝このルージュの新色、透子の肌になじみそうだな〟と、彼女を思い浮かべている瞬間があった。
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